共同体の真の条件とは
そうではなくて、このなかにいる自分も他人も同じ人間なのだから、言いたいことを言っても排除されることはないという安心感を持てるのが共同体感覚だと言うのです。
この共同体感覚を持っている人とは、自分のことは何でも受け入れてもらえるという安心感があり、お互いにどんなことを言っても糾弾されない人間関係があります。
つまり、周囲が「仲間」なのだと感じられることが共同体の条件なのです。
大勢の人からどう言われようと、どう見られようと自分は自分だし、それを受け入れてくれる仲間が一人でもいるなら、それはあなたの共同体なのです。
40代後半くらいから、人は出世や競争という概念から徐々に自由になっていきます。
そんな時期だからこそ、そろそろ損得勘定での人間関係からは卒業して、本当に仲間だと思える人を探したいものです。
いちばん信じられるものは何か
アドラーは、共同体感覚を高めるためには、ありのままの自分を受け入れ、他人を信頼し、仲間に対して何らかの貢献をしようとすることが大事だと述べています。
ですから、「こんな自分には、どうせ仲間も友だちもできない」などと決めつけるのではなく、他人を信じて自分を受け入れてもらえる場所や仲間を探してみることです。行動する前から「どうせ仲間なんてできない」と決めつけていたら、何もできません。
また、損得勘定による人間関係で「この人の言うことを聞いていたら出世できる」とか「この人と付き合っていると人脈ができるはず」などと計算をする人もいますが、人間の計算ほどうまくいかないものはありません。
それよりも、純粋に「この人が好きだから付き合う」「面白いから一緒にいる」というほうがいいのです。なぜなら「この人と付き合っていたら、後でいいことがある」かどうかは誰にもわからないけれど、自分が今「この人と一緒にいると楽しい」のは確かなことだからです。
つまり、いちばん信じられるものは「今」なのです。
1960年、大阪府生まれ。東京大学医学部卒業。精神科医。東京大学医学部附属病院精神神経科助手、アメリカ・カール・メニンガー精神医学校国際フェローを経て、現在、和田秀樹こころと体のクリニック院長。国際医療福祉大学教授(医療福祉学研究科臨床心理学専攻)。一橋大学経済学部非常勤講師(医療経済学)。川崎幸病院精神科顧問。高齢者専門の精神科医として、30年以上にわたって高齢者医療の現場に携わっている。2022年総合ベストセラーに輝いた『80歳の壁』(幻冬舎新書)をはじめ、『70歳が老化の分かれ道』(詩想社新書)、『老いの品格』(PHP新書)、『老後は要領』(幻冬舎)、『不安に負けない気持ちの整理術』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)、『どうせ死ぬんだから 好きなことだけやって寿命を使いきる』(SBクリエイティブ)など著書多数。