私服のテクニシャンが現れた…

筆者自身もジュガールに直面した経験がある。デリーに住んでいたときのことだ。インド都市部では、水回りはやや複雑な経路をとる。公共の水道管から建物の地下タンクに決まった時間に給水が行われ、それを今度は屋上にある各世帯のタンクにモーターで吸い上げ、それを蛇口やシャワー等で利用するという具合だ。

ある日、蛇口をひねっても水がまったく出ないことがあった。水が使えなくてはたまらないので、家主に相談すると、「テクニシャン」を家に向かわせるという。数時間後、簡単な工具が入ったカバンを携えただけの私服のインド人男性が現れた。

点検した彼いわく、「屋上タンク内の浮球の部品が壊れている」とのことだったが、替えの部品を用意してきたわけではないという。水が使えるのはいったいいつのことやら――そう暗い気持ちになりかけた矢先、彼は何やらワイヤーのようなものを使って問題の部分をいじりはじめた。ほどなくして給水が始まり、事なきを得たのだった。

オールドデリー通りで電気ケーブル整備の男性
写真=iStock.com/Nikada
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「電気を使わない冷蔵庫」の誕生

これぞジュガール、という例をいくつか紹介しよう。

まずは何と言っても電気を使わない冷蔵庫、「ミティクール」だ。

ミティクールは、インド西部グジャラート州の農村在住陶芸職人、マンスクバイ・プラジャパティという男性によって2005年に開発された。堂々たる21世紀の産物である。

粘土を使った筐体きょうたいで、上には注水口が付いている。そこから水が箱の中に浸透していくのだが、その水が蒸発する際に庫内の熱を吸収することで冷却できるというメカニズムだという。これで野菜なら5日間は鮮度を保つことができるというから驚きだ。

電気が当たり前にあることを前提に考えたら、このような手作りの冷蔵庫という発想はまずなかっただろう。だが、インドでは電化されていない農村も少なくない。都市部でも、減ってきたとはいえ停電もまだまだある。まさに「リソースがない」という不利な状況でも諦めずに、いやむしろそうした状況だからこそ生まれたのがミティクールだと言える。その後「ミティクール」ブランドはフライパンや鍋、水用のボトルなど、粘土を使った調理用品を多数開発している。