新薬の値段は年間298万円、他の病気があり投与できない人も
それから、このモノクローナル抗体アデュカヌマブ、レカネマブ、ドナネマブを投与した実験では、一部の人の脳に副作用が出るのです。ちょっとした出血とか、脳がちょっと腫れる(浮腫、腫脹)のです。もっと大きな問題は、血管にアミロイド(Aβが不溶性線維たもの)がある人に抗体が作用すると、Aβがなくなると同時に血管が傷つき大出血し死亡するケースが見られたのです。
ということは、脳梗塞が起きて血をサラサラにする薬を投与している人には、新薬を使いにくいことが分かります。血管にアミロイドが蓄積している人も同様です。これを判定するのはなかなか難しい問題で、どういう人を治療対象にするかが、新薬の値段(2023年末に、年間298万円と発表されました)とともに、今後の治療のポイントになっているのです。
1950年石川県生まれ。東京大学教養学部基礎科学科卒業、東京大学理学系大学院修了。国立精神・神経センター神経研究所、東京大学分子細胞生物学研究所助教授、東京大学大学院総合文化研究科教授を経て、東京大学名誉教授。専門は分子認知科学、分子生物学、生化学。難病の解明をライフワークに、遺伝性神経疾患の分子細胞生物学研究をおこなっている。著書に『理数探究の考え方』(ちくま新書)、『運動・からだ図解 脳・神経のしくみ』(マイナビ出版)ほか。