社内の反対にめげず金麦のパッケージを刷新
宣言したとはいえ、仕事を断らざるを得ない場面は多々あり、軋轢や支障が起きないように苦心した。
「出席できない会議は資料を見て、事前に気になることや検討してほしいことを伝え、決まったことは尊重します。社外の方には迷惑をかけられないので、納期を守ることをかなり意識して、前倒しで仕事を進めます。大事なのは、気にしすぎないことなのかもしれません。ウジウジしても、周りは何もうれしくないと思うので」
2007年に発売開始した「金麦」だが、10年後には停滞期を迎えていた。2022年に金麦のブランドマーケティング担当になった斎藤さんは、パッケージのロゴの縦書きを提案し、CMを刷新した。
「ビール類のロゴの縦書きは前例がないと反対もあったのですが、お客さまの調査で反応がいいと、説得しました。金麦自体が日本語なので、日本のものづくりと合うところで、暖簾のようなイメージで、縦書きがいいのではと。店頭でも視認性が高いという結果が得られました」
CMも、女性が夫の帰りを家で待つイメージから、自分で買って自分で飲んで、「家時間が、すごく素敵」というものに変えた。「もう、そういう時代ではないだろう」と。
恩を実績で返したい
「おかげさまで売り上げはV字回復、好調です。金麦は、ビール事業の一番大きな売り上げを持っています。この部門での課長登用にあたって、働き方の制約がある私に大きな数字を任せていただいた恩を実績で返したいと気持ちを引き締めているところです。金麦は、家時間の幸せに寄り添うブランド。我々がもっと金麦を素敵なブランドにして、皆さまに幸せを届けたいなと思います」
課長就任を見据え、昨年はリーダーを任され、大きなターニングポイントとなった。
「人を育てることは苦手だと思っていましたが、やってみたら楽しくて、例えば若手の女性社員が悩んでいることがわかり、自分の責任としてロールモデルとしての姿を作っていかなきゃいけないと。後進の人に道を作ってあげることも、仕事かもしれないと思っています」
斎藤さんが示すのは、今までにない“希望のロールモデル”だ。
「女性が仕事をするって覚悟がいるということを、課長になって改めて思います。自分を過小評価したくなる気持ちもありますが、量より質で返すと決めた以上、それは考えない。結局は、覚悟ですね。気持ちの強さをしっかり持てば、周りの協力につながっていくのかと思います」
4月、ビールの醸造技術でレモン風味のサワーの味わいを実現した、衝撃の「金麦サワー」を北海道限定で発売。斎藤さんの下、金麦の進化が止まらない。
福島県生まれ。ノンフィクション作家。東京女子大卒。2013年、『誕生日を知らない女の子 虐待――その後の子どもたち』(集英社)で、第11 回開高健ノンフィクション賞を受賞。このほか『8050問題 中高年ひきこもり、7つの家族の再生物語』(集英社)、『県立!再チャレンジ高校』(講談社現代新書)、『シングルマザー、その後』(集英社新書)などがある。