オプションで稼ごうとする

では、なぜ、こんな安い金額で受注する下請けの葬儀社がいるのか。

人件費も出ないような安い金額でなぜ受注するのかは正直筆者にもわからない。

しかし、仲介業者と契約を結ぶある経営者から「葬儀がなくても社員には給料を払わないといけないから、利益が出なくても受ける。社員を遊ばせておくのはもったいない」という信じられないような話を聞いたことがある。また葬儀社として独立したてで、仕事がなく先行投資として契約するしかなかったという経営者も知っている。

そのため、安い価格で受注した葬儀社は不要なオプションなどをあれこれ遺族に提案し、なんとか利益が出る状態までもっていこうとする。4日後に火葬する遺族に対してエンバーミングという高価な防腐処理を勧めたり(一般的に2週間程度であればドライアイスと化粧だけで遺体の状態は悪くならない)、家族葬なのに高価な骨壺や遺影などのオプションをしつこく提案されたという相談が筆者の下に多く寄せられている。

どちらにしろ、きちんと利益を出して給与を払い、顧客に満足のいくサービスを提供するのが、どの仕事でも求められる経営者の仕事であり、利益の出ない仕事を受け続ければ、経営上問題になるのは明らかだ。

葬儀の祭壇
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葬儀は社ごとの単純比較ができない

ネットが普及して、物やサービスを購入するときには、まずネットで調べるのが当たり前になった。同じサービスを受けるのであれば、できるだけ安い所にして出費を抑えたいと思うのが人情というものだ。

だが、葬儀に関してはそこに大きな落とし穴がある。家電製品のように決まった規格や性能があれば、価格を比べ安いものを選ぶというのが賢い消費者の行動だ。しかし、葬儀などの人的なサービスが伴うものは「同様の品質」というものが存在しない。頼んでみなければわからない種類の取引である。

似たような例としてバッテリー上がりの時のロードサービスがある。車を運転する人なら、バッテリー上がりで車が動かなくなった経験があるだろう。

スマホで「バッテリー上がった」などと検索すると「24時間受付 都内30分以内 3980円」といった広告が見つかる。急いでなんとかしないといけない事なので、電話で総額料金を聞き、到着までの時間を確認して依頼をしたが、25分と言われた到着時間を大幅に過ぎても到着せず、やっと着いたのは電話から90分経ったころだった。

しかも最初に言われた言葉は「出張料など込みで2万円になります。どうしますか?」だった。話が違う事や到着時間を大幅に過ぎていることを伝えても、料金を支払えないならそのまま帰ると言われ、そのあとの仕事の都合もあるので、なんとか交渉して1万8000円まで値引きさせて、「勉強代か……」とあきらめる――という話はどこにでも転がっている。

葬儀も同様で、安くできると思ってネットの広告を信じてしまい、依頼して、遺体を預かってもらうところまでいって、やっと総額の見積もりがでてくる。そこで予想の何倍もの見積もりを見せられて「断るならキャンセル料がかかる」「最低限の金額では顔を見ることもできないが、どうする」といった騙し打ちのようなことが起こっている。