イノベーションキラー

このようにファイトがデフォルトだったAさんは、無自覚のうちに自分のチームメンバーとファイトすることもしょっちゅうでした。新しいアイデアについて部下から相談を持ちかけられても、Aさんは「それはダメだ」と直ちに却下してしまうことが多かったといいます。

ストップサインを出す日本の男性ビジネスマン
写真=iStock.com/mapo
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新しいアイデアを思いついた人には、その人なりの背景や、ストーリーがあったはずです。けれども、Aさんはそれらには目を向けずに、部下の提案をバッサリ切り捨てていました。イノベーションを生む仕事をしているはずなのに、新しいアイデアを殺してしまっていたのですね。

そんな「イノベーションキラー」だったAさんの根底には、実はリーダーとしての曖昧さがありました。Aさん自身が自分の意図を明確化できておらず、ましてやその意図をチームに伝えることもできていなかったので、とにかくモーレツに働き続けることでなんとか前に進んでいこうとしていたのです。

残念ながら、曖昧さが介在したリーダーシップは周囲からの信頼を損ねかねず、Aさん自身をどんどん孤独にしていきました。

崩壊の危機

ところで、当時のAさんは気づいていませんでしたが、彼にはファイト以外にももうひとつの行動パターンがありました。それは「collapse(崩壊)」です。どんなに活力がある人でさえ、ずっと戦い続けていてはいつかバーンアウトして、ブラックゾーン(低覚醒の状態)に落ちてしまいますから。

Aさんの場合、自分のがんばりが結果を生んでいないことに気づき始めたのがひとつの転機だったようです。スキルを上げるために努力は必要だけど、疲弊しきった状態ではいくら努力をしても結果が出にくい、と気づいたAさんの更なる転機は生け花でした。