花そのものが活きるように生ける

変化は、ちょっとずつやってきます。自分を発見するプロセスは点ではなく線のような連続性から成り立っており、一瞬のまばゆい閃光ではなく、光の連続性から徐々に照らし出されていくものです。

Aさんが自分を発見するプロセスを始めた大きなきっかけは、セルフマネジメントプログラムの一環として体験した生け花でした。

生け花
写真=iStock.com/ChiaChi Liew
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おもしろいことに、生け花は「こういうかたちにしたい」と自分が意図をもってつくり出すものではなく、花そのものがもっとも活きるように生けてあげなければなりません。そのためには、時に慣れ親しんだパターンを放棄し、新しい視点を取り入れなければならない場合があります。

Aさんは、ひとりで生けるワークとは別にチームで生けるワークも行いました。これは、一人に一本の花材が手渡され、5人制のチームごとに一人ずつ生けていって、最終的にはひとつの作品を完成させるというもの。チームで生けると自分のイメージとは違う生け方を他のメンバーがして、面食らったり想定外のことが起きるので、「こんなはずじゃなかった」とフラストレーションが溜まったりもします。

そんな想定外の状況下においても、ひとつの作品を作り上げなければならないところがミソ。感性が磨かれると同時に、自分のリーダーシップやマネジメントのスタイルやパターンを知るきっかけにもなる、非常に興味深い体験です。ですから我々の間では生け花のことを「魔法のツール」と呼んでいますし、欧米のビジネススクールの授業の一環としてカリキュラムに取り入れられています。

生け花に表れた本当の心

その生け花を通じて、Aさんは初めて自分が今までレッドゾーンにいたことに気づきました。いつも前へ、前へと進みたいばかりに戦っていたこと、まわりの人たちの言うことに耳を貸さないという自分のパターンにも気づかされたそうです。

そんなAさんが完成させた生け花は、大変に美しく、優雅なものでした。人生初の生け花だったのに見事な結果でした。そこには、これまでは戦ってばかりいたため封じ込められていた彼の内面の美しさがはっきりと表れていたのだと思います。