新NISAより年金の繰下げ受給が有利な場合も

女性のおひとりさまのケースはどうでしょうか。定年後は再雇用で働いて60歳以降の給与は320万円、65歳から70歳までは年収60万円の予定です。また、60歳から70歳までは企業年金が年60万円、65歳からは年金が年170万円受け取れる予定です。60歳時点で住宅ローンが残りますが、退職金を使って全額返済する予定です。

生活費は年間240万円を維持する予定です。60歳から65歳までは給料が年320万円、企業年金60万円の合計390万円ありますので、生活費を差し引いた収支は150万円のプラスです。新NISAを利用して60歳から65歳まで年間100万円、65歳から70歳まで年間50万円を積み立てることにしました。

年2%で運用できたとすると、70歳時点で約1000万円の資金が確保できます。70歳以降は収入を支出が上回るので、新NISAを優先して取り崩しを始めますが、83歳で新NISAの残高がゼロ、85歳で貯蓄がゼロになります。しかし、年170万円の年金がありますので、この範囲で生活ができれば問題はありません。

85歳以降に年170万円の年金だけで暮らすのは、不安かもしれません。そこで、年金の受取を70歳まで繰下げるプランを考えてみます。

60歳からは新NISAで運用するのではなく、貯蓄として貯めておきます。65歳から70歳までは年金を繰り下げて、その間は貯蓄を取り崩して生活します。そのため、70歳時点で貯蓄残高が240万円と厳しくなります。

しかし、70歳からの受け取る年金は241万円に増額します。収支のバランスが改善して、生活が安定します。年間で1万円とわずかですが、収支は黒字になります。その結果、貯蓄が減らない心の安定が得られます。年金の繰下げは資産運用と同じような効果が得られます。しかも価格変動リスクがありません。新NISAの活用と同時に、年金の繰下げも選択肢として検討してみるといいでしょう。

【図表3】60歳から老後資金をつくる女性おひとりさまのケース
作成=長尾義弘
長尾 義弘(ながお・よしひろ)
NEO企画代表、ファイナンシャルプランナー、AFP

徳島県生まれ。大学卒業後、出版社に勤務。1997年にNEO企画を設立。出版プロデューサーとして数々のベストセラーを生み出す。新聞・雑誌・Webなどで「お金」をテーマに幅広く執筆。著書に『コワ~い保険の話』(宝島社)、『こんな保険には入るな!』(廣済堂出版)、『とっくに50代 老後のお金どう作ればいいですか?』(青春出版社)、監修書には年度版シリーズ『NEW よい保険・悪い保険』(徳間書店)など多数。