50歳のヒラ社員の年収が35歳より150万円も高い不可思議

【海老原】もう一度、日本の年功給の問題に戻りましょう。従業員1000人以上の大企業の年功カーブを見ると、ずっとヒラ社員でいたとしても、35歳から50歳で、約150万円も昇給します。でも、35歳と50歳のヒラ社員、どちらが、仕事ができるでしょう? 35歳には将来の部長、課長、役員候補もいるわけだから、明らかにポテンシャルが高い。なのに後者の方が150万円も高給……。これはおかしくありませんか?

こうした年功昇給、江夏さんが解説されたようにその大本には電産型の「家族給」思想があったはずです。夫が大黒柱となり、子どもが大きくなるにしたがい給与を増やす。それは、男しか働けない社会では必要だったでしょう。でも、現在では女性も普通に働け、生涯未婚者もDINKs(子供のいない共働き夫婦)も増えています。とすると明らかにもらい過ぎが起きていることになる。

【図表2】日本型年功給の問題(大企業を例示)
※図表作成=海老原氏

【江夏】そうですね。既得権益には触れないというタブーが企業に存在するのかもしれません。ただ、伝統的大企業はともかく、非組合系の企業やベンチャーでは年功傾向の弱い賃金体系を組みやすいのではないでしょうか。

階段を降りて「80%社員」になるという選択肢

【海老原】はい、零細企業は年功昇給が弱いですね。でも、従業員100名を超えるともう、くっきり年功昇給が現れています。だから多くの日本人は、年とともに給与は上がると刷り込まれている。

これがキャリアの選択肢を限定し男性も女性も苦しめることになっている。僕は「階段を降りる」という仕組みを日本型に加えるべきと思っています。たとえばね、35歳以降、仕事も給与も2割ほど減らす、「80%型社員」なんて仕組みはどうでしょう。大企業なら年収600万円まで下がるけど、夫婦共働き世帯であれば、それでも1200万円を超えます。しかも600万円なら「払い過ぎ」にならないから、ミドルに雇用危機も起きません。仕事が減って楽になれば、家事育児にも力が入れられます。

【江夏】そういう選択肢を早いうちから念頭に置いておくと家族設計も柔軟に考えられますね。実際、若い人の多くが昇進にメリットを見出していなかったり、転居転勤がない代わりに昇進機会や報酬水準が幾分制限された「限定正社員」があったりで、仰ったようなことの実現可能性は高まっていると思います。

【海老原】子供の教育費が要るといっても、夫婦ともに600万円あれば御の字でしょう。現在ね、50代前半の大卒社員の管理職比率を見ると、中小、中堅、大企業ともに5割を切っています。つまり滅私奉公しても課長にさえなれない人が過半数となっているならね、評価が悪い人は楽に働き、早く帰って家事育児をするのが良くありませんか。

【図表3】「80%型社員」は転職もしやすい
※図表作成=海老原氏