「ほかに好きな人ができた」
ところが、S子さんは失恋してしまった。突然、「ほかに好きな人ができた」と言われたのだ。
「別れたくない」とS子さんは追いすがったが、彼の気持ちが変わることはなかった。どうしてもあきらめられないS子さんは、彼の家を何度か訪ねた。すると、彼は話し合いに応じてくれるどころか、「これ以上つきまとったら、警察に相談する」と冷たく言い放った。
「あんなに尽くしたのに……」「彼に喜んでもらおうと努力したのに」3年間、彼のためにしてきたことを思うと、S子さんの胸中には悲しみよりも怒りがわいた。簡単に忘れられるとは思えなかった。現に、S子さんはその後何年間も、彼への恨みや未練を引きずったまま過ごした。
「新しい恋を始めよう」と切り替える気持ちになれず、代わりに仕事にまい進した。
そうしているうちに気づけば40歳になり、ようやく婚活を始める気になったのが2年前なのだという。
「母は私より妹のほうが大事」
S子さんのように「私が幸せにしなければ」という責任感が強い女性のなかには、親の愛情に「不足感」を抱いている人がじつは多い。
S子さんも、「小さい頃から、母は私より妹のほうが大事なんだと思っていました」と打ち明けてくれた。S子さんの妹は、幼い頃しょっちゅうぜんそくの発作を起こした。母親はそのたびに病院へ連れて行き、夜通し付き添う。妹に比べて手がかからない子どもだったS子さんは、妹にかかりきりの母親に手間をかけないよう気を遣っていたという。
S子さんは、「自分が母親を支えなければ」という思いを抱いて成長した。大人になってからは、母親の悩みやグチを聞くのがS子さんの役目になった。
S子さんの両親はけっして不仲ではないが、母親は父親に対してそれなりに不満を抱いており、しっかり者のS子さんにしょっちゅうグチをこぼす。S子さんは母親の話に耳を傾け、時には父親に助言をすることもあるそうだ。
結婚して家を出た妹に対しても同じだ。グチを聞いてあげたり、まだ手のかかる年頃の子どもを見てあげたりと、サポートしている。
幼い頃から、S子さんが妹の面倒を見ていると母親は喜んで、褒めてくれた。
S子さんは自分では無意識のうちに、「どうすれば母親に褒めてもらえるか」「どうすれば喜んでもらえるか」を基準に行動するようになった。母親に褒められたくて勉強もがんばったし、妹のこともかわいがってきた。
その陰で、S子さんは自分の心のなかに「母親の意に沿わないことをすれば、愛してもらえない」という不安を育ててしまったのだ。