処分の理由は何だったのか

ここまで長々と書いてきた。しかし都立大の運営主体である東京都公立大学法人から出された、宮台氏について書かれたとされている文書を注意深く読めば、やはり処分はせざるを得なかったのだろうと思われる。

ただそれは、他大学に通う20歳の学生との関係や、週刊誌報道により大学に苦情が寄せられ、大学の信用を失墜させたことが、主な理由であるとは受け取りにくい。学生との関係については、未成年ではなく、また宮台氏の教え子ではなく利害関係がないことから、処分の根拠とするには無理があることは、前述の通りだ。また、大学の信用を失墜させたことについては、報じられなければ問題がなかったのか、苦情が寄せられたことが問題だったのかなどの疑問も湧く。

私が本件で、処分をせざるを得なかったと考えるのは、「調査研究の一環として」不適切な行動を行ったというところだ。

東京都公立大学法人の文書には、以下のように書かれている。

「当該教員は、調査研究の一環として、他大学に通う20歳の学生に対し、令和5年12月にラブホテルなどにおいて、取材をするとともに、その返礼としての相談に乗るなどの不適切な行動をとった」

さらに宮台氏は、週刊誌への取材に対して、「最近の高校生の性愛事情に関して、本人や周囲の友人たちの行動や心理を細かく取材していました」と答えている。

東京都立大南大沢キャンパス=2022年11月29日夜、東京都八王子市南大沢
写真=時事通信フォト
東京都立大南大沢キャンパス=2022年11月29日夜、東京都八王子市南大沢

「調査研究」としてあるまじき行動

宮台氏の「言い訳」を信じている人は少ないのではないかと思うのだが、取材対象者とラブホテルに行くなどは、研究者の調査研究としては論外の行動である。

近年は調査の倫理規定はとても厳しくなってきており、アメリカなどでは、調査旅行の行先すら言うことができない。守秘義務があり、調査旅行の行先を明らかにすると、調査対象者が誰かを特定される恐れがあるという理由からである。そして、調査対象者には、事前に、調査事項について書かれた多くの書類に目を通してもらったうえで同意の署名をしてもらう必要がある。調査者と被調査者のあいだにある力関係には、とくに細心の注意を払わなければならない。それほどまでに、調査の倫理が厳しくなっているのである。

もし宮台氏が、「プライベートなことだから放っておいてくれ」と言っていれば、批判を受けることはあったかもしれないが、懲戒処分を受けることはなかったのではないか。「調査をしていた」という説明をしたからこそ、ラブホテルに行ったことが問題となり、調査活動としては「不適切」だと処分されることになったのだろう。

千田 有紀(せんだ・ゆき)
武蔵大学社会学部教授

1968年生まれ。東京大学文学部社会学科卒業。東京外国語大学外国語学部准教授、コロンビア大学の客員研究員などを経て、武蔵大学社会学部教授。専門は現代社会学。家族、ジェンダー、セクシュアリティ、格差、サブカルチャーなど対象は多岐にわたる。著作は『日本型近代家族―どこから来てどこへ行くのか』、『女性学/男性学』、共著に『ジェンダー論をつかむ』など多数。ヤフー個人