もう、笑えない

その後、私はどうしたことか突然に襲ってきた心理状態、全ての年末年始お笑い特番に興味を失い拒否するという「笑い鬱」の中で新年を迎え、自分でも戸惑うばかりだった。

ライブに行き、劇場に通い、劇場の楽屋で芸人さんをインタビューして記事にすることもあった、これだけお笑いの好きな私が。彼らが綿密に練り上げ磨き上げたネタで操る、計算され尽くした言葉に芸術性を感じてメモに書き留め、大学のライティング授業で「お笑いは精密な言葉のアートだから積極的に見て学ぶべし」と一席ぶつ私が。コメンテーターのくせに地上波テレビでニュースはほぼ見ず、最優先でお笑い番組を見る私が。

年末年始は例年通り、視聴率と笑いの質を確実に保証する笑いの偶像と崇められた松本人志氏がMCを務める、多くのお笑い特番が用意されていた。だが文春の記事に対し、松本氏の所属事務所である吉本興業が「当該事実は一切なく」としたコメントは、私の目には収録済みの全正月特番を支障なく放送し、損害を生まないための時間稼ぎのように映った。

お笑いファンとして、あの話題を保留にしたまま、それにくみするのは違う気がした。

見るに耐えなかった。家族がつけたテレビから漏れてくる華やかな出囃子や強く張った声で畳み掛けるボケとツッコミ、客席でドカンと弾ける笑い声、MCたちの軽妙なイジり。みんな、何を無邪気に笑っているんだろう。いったい何が面白いんだろう。お笑い番組が聞こえてくると、ヘッドホンをして海外映画に見入ったり、別の部屋へ移って本を読んだ。彼らの笑いが、笑えなくなっていた。

「とうとう出たね。。。」

そして1月5日、文春記事中で事実を否定した以外は公的に沈黙を守っていた松本氏が、週刊女性PRIMEのネット記事を紹介する形で「とうとう出たね。。。」とXを更新。 

文春側告発者であるA子さんが「性加害があった」とする合コン後に松本氏の後輩芸人へ送ったとされるLINEメッセージの画面を報じた記事で、その流出画面にはA子さんの「幻みたいに稀少な会をありがとうございました。会えて嬉しかったです」「松本さんも本当に本当に素敵で」「最後までとても優しくて」とするお礼メッセージがあった。

「とうとう出たね。。。」という投稿に松本氏が込めた文意は、松本氏を擁護する人々にもそうでない人々にも、「A子さんの告発は事実ではなく、合コンに喜んで参加していた。このLINE画面がその証拠である」と読まれた。そしてさまざまな反応を呼んだ。

スマートフォンでネガティブなニュースを読んでいる女性
写真=iStock.com/Kayoko Hayashi
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