「笑いの王」に感じた失望
A子さんの「お礼メッセージ」を見せて、「だから俺は悪くない。嘘をついているのはあっちだ」と言わんがばかりの笑いの王の姿に、私は打ちのめされるような失望を感じたのだ。誰よりも人間の心の機微に敏感で、言葉を操ることに長けていてほしかった笑いの王の、そんな姿に。
このコラムでは香川照之氏のセクハラが問題となった時にも書いたことだが、ハラスメントの本質はいじめである。パワハラでもセクハラでもモラハラでも、力(権力)の傾斜があるところにハラスメントは生まれる。ハラスメントが常態化している業界は、本質的にいじめ体質なのである。
そこに疑問のない業界、疑問を持たない人たちから生まれたような「表現」「笑い」を私はもう無邪気に笑うことができない、と気づいてしまったのだ。
松本人志氏が活動休止を表明したことを受けて、まさにここに書いたような内容を発言した1月9日(火)のABEMAPrime放送後、私のもとにはさまざまな連絡が絶え間なくやってくる。ネットではコメントも賛否両論かまびすしい。
「私も、芸人さんとの合コンで嫌な思いをしたけれど人に言えず、あれは自分のせいだったんだと自分自身を責めて気持ち悪さを飲み込もうとしてきました」と過去の体験を告白してくれる女性たちから連絡がくる。その一方で、「松本人志は天才だ。遊びは芸の肥やしだ。調子よく奢ってもらいながら8年前のことを今さら蒸し返すような女が言う『性加害』なんて信用できるわけもないのに、お前のように笑いもわからない素人女が松本を非難するなんておこがましい、不愉快だ」という男性からのコメントもやってくる。
「松本人志という権力」が、裁判に専念するため活動休止するという。あれだけ好きだったお笑い。だがもう無邪気には笑えないと気づいてしまった今、「もうそういうお笑いは見なくてもいいかな」、そう思ってしまっている自分がいる。
1973年、京都府生まれ。慶應義塾大学総合政策学部卒業。時事、カルチャー、政治経済、子育て・教育など多くの分野で執筆中。著書に『オタク中年女子のすすめ』『女子の生き様は顔に出る』ほか。