3月29日に最終回を迎える話題のドラマ「ふてほど」こと「不適切にもほどがある!」(TBS系)。昭和の体育教師が令和にタイムスリップし、セクハラが厳禁となった今とのギャップを描いてきたが、コラムニストの藤井セイラさんは「ともすれば、私たちが40年かけてハラスメントを減らすために進めてきた意識改革へのバックラッシュにもなりかねない内容だった。一方で、同じ年頃の男性が令和にアップデートできた、もうひとつのドラマがあった」という――。
第44回エランドール賞の授賞式で、テレビプロデューサー賞を受賞した「いだてん」の制作者を祝福する俳優の阿部サダヲさん(東京都新宿区の京王プラザ)
写真=時事通信フォト
第44回エランドール賞の授賞式で、テレビプロデューサー賞を受賞した「いだてん」の制作者を祝福する俳優の阿部サダヲさん(東京都新宿区の京王プラザ)

「おっパン」「ふてほど」中年男性ドラマが2本同時に

ともに「おじさん」を描きながら、真逆の展開をたどった2本の連続ドラマがある。「不適切にもほどがある!」(TBS系)と「おっさんのパンツがなんだっていいじゃないか!」(フジテレビ系、東海テレビ制作)だ。

前者は略して「ふてほど」、後者は「おっパン」。それぞれ、阿部サダヲと原田泰造という1970年生まれの俳優を主演にすえて「中年男性が令和の価値観についていけない」という時代とのギャップを描いた点で共通する。では、評価の分かれたポイントはどこだったのだろうか?

「ふてほど」は映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』そして『時をかける少女』を下敷きにしたと思われるタイムスリップ・コメディだ。主人公の体罰体育教師・小川市郎(阿部サダヲ)が、1986年から2024年に旅して、毎回、セクハラ、コンプラ、SNS炎上といったテーマに悩まされる現代人を「まあまあ」となだめ、「乱暴で野蛮な昭和」と「潔癖で息苦しい令和」の中間の落としどころを探るドラマだ。

脚本は、朝ドラや大河ドラマも手がけた宮藤官九郎。X(元ツイッター)などのSNSやドラマ評でも「さすがに面白い」と評価する声も多い。しかし一方、過去にここまで批判されたクドカン作品もないだろう。

最初はSNSで違和感のつぶやきレベルだったものが、最終回が近づくにつれ、新聞のドラマ評などでも識者によってしっかりと批判される状況になってきている(朝日新聞「『不適切にもほどがある!』への違和感 すっぽり抜け落ちたものとは」など)。原因のひとつに、取り上げるテーマに対する「解像度の粗さ」が挙げられる。とにかく問題認識がざっくりしているのだ。

「男らしさ」の呪縛から自由になっていった「おっパン」

もう一方の「おっパン」、主人公の沖田誠(原田泰造)は「男は男らしく」という古い意識の中年男性だ。会社でも「愛嬌は女性の武器だろう」「嫁に行きそびれるぞ」と偏見をまき散らし、部下からも敬遠される管理職。息子は不登校、飼い犬も自分にはなつかない。

一見、バラバラに見える家族だが、実はそれぞれが自分の「好き」を持っている。娘の萌(大原梓)はBL(ボーイズラブ)の同人作家活動にいそしみ、妻(富田靖子)はアイドルの推し活に夢中。ひきこもる息子(城桧吏)は「カワイイもの」が好き。

そんな家族と向かい合う中で、硬直していた誠の価値観も変わり始め、自分が変わると周囲との関係性も変わっていく、というストーリーだ。