※本稿は、砂古口早苗『ブギの女王・笠置シヅ子』(潮文庫)の一部を再編集したものです。
昭和25年に発売された笠置シヅ子最大級のヒット曲
私が「買物ブギー」を初めて聴いたときがいつだったか、はっきりとした記憶はないのだが、なぜか子どもの頃から耳になじんでいる。むろんテレビより以前だから、ラジオで聴いたように思う。子ども心にも一瞬、「なんやこれは!」と仰天しつつ、不思議な驚きというか、衝撃に近いものを受け、聴き入った。ボケとツッコミの一人漫才を歌にしたような異様な歌だが、嫌悪感はない。むしろ逆で、聴いた瞬間から身も心も無意識に受け入れている。その心地いいリズムと言葉のテンポに、大人も子どもも男も女も、歌の世界に引きずり込まれるのだ。
半世紀以上経ってもなぜこの歌が私には特別なのだろう。流行歌には多かれ少なかれ、恋だの愛だの、別れや出会いや、切なさや楽しさなどがテーマで、なんとなく歌の世界にちょっとした物語がある。だがこれはそんなものとは全然違う。“コミックソング”とか“冗談ソング”といった範疇にもすんなりとは納まらない。
別に意味はなく、単なるギャグの羅列ともいえるが、それだけでもない。大阪のおばちゃん的・笠置シヅ子の強烈な魅力なしには、この歌は成り立たないのだ。時代の洗礼を受けた輝かしい名曲の殿堂に入っているわけでもないのに、何度聴いてもちっとも色褪せず、新鮮だ。今なお、いろんな歌手に歌い継がれ、若い歌手たちにもアレンジされ、リメイクされている理由がわかる気がする。
大阪育ちの笠置と服部良一による抜群の「上方話芸的センス」
おそらくそこには瞬時にして人を魅了する抜群の上方話芸的センスと同時に、ナマの感性をたちまちキャッチするようなー種の“あやうさ”があるからだと私は思う。それは言葉でちょっと説明しにくい。単なる感覚的な好みの問題かもしれない。そんな「買物ブギー」は、笠置シヅ子という歌姫そのものを象徴しているようにも思える。
「買物ブギー」は大阪で生まれ育った服部良一が若い頃、法善寺横町の寄席で聞いた上方落語の「ないもん買い」をヒントに、魚屋、八百屋と買い物しながら品物を並べて歌う、現代のラップ・ミュージックと言われている。服部が“ひょう疽”で寝ているとき、笠置にどうしても新曲を書いてほしいとねだられて書いたと、後に服部は手記に書いている。