2023年12月26日、週刊文春がダウンタウンの松本人志氏の性加害疑惑を報じ、今年1月8日には吉本興業が松本氏の芸能活動休止を発表した。コラムニストの河崎環さんは「SNSでは、松本氏を支持し、性加害を告発した女性を中傷するコメントが多数書き込まれている。だが、彼女らに対するそれらの中傷こそが、ハラスメントや性加害事件が明るみに出るたびに日本社会がひと通り繰り返すサイクルの典型だ」という――。
ダウンタウンの松本人志氏。2025日本万国博覧会誘致委員会の発足式典で。東京都千代田区、2017年3月27日撮影
写真=時事通信フォト
ダウンタウンの松本人志氏。2025日本万国博覧会誘致委員会の発足式典で。東京都千代田区、2017年3月27日撮影

「笑いの王」に放たれた文春砲

昨年のM-1グランプリが新たなチャンピオンを生み出すのを全国が見届けた、ほんの2日後の12月26日。文春オンラインはM-1の審査委員長席に座っていたダウンタウン・松本人志氏の8年前の性的ハラスメントを告発する、週刊文春の発売前先見せ記事を公開した。

90年代以来、日本の一大お笑いブームを牽引し続けたレジェンド芸人であり、多くの芸人やお笑いファンから崇敬の念を一身に集める松本氏は、いまや誰もが疑いなく認める「笑いの王」だ。次の年のお笑いスターを決めるのは松本氏の表情や言葉次第。ダウンタウンに憧れて芸人を目指した若者たちがプロ芸人になり、「松本さん」の承認のかけらを拾うことで生き延びてきた。

松本人志、彼が現代のお笑いの正義でありルールだった。

現代のお笑いを左右する舵を手中に握ってきた松本氏に向かって放たれた文春砲に、私は虚をつかれた思いだった。昨年末にこの連載コラム原稿にも書いていた通り「さて来年は、私たちが『そういうものだ』と信じきっているものの中から、何が壊れるのだろう」、そのままの心境でいた矢先。

そうか、時代は、次はそこに引導を渡すのか。まさに私も「そういうものだ」と大きな疑問を持たずにいた芸人の遊び方が、価値観を塗り替える時代の俎上そじょうに載せられたのだ。

それはきわどいのではなく“アウト”だった

ライブに通って「出待ち」をするなど、積極的に芸人と近づこうとするお笑いファンの女性たちの中では、芸人たちが頻繁に素人ファンと行う合コンや、SNSのDMを使ってフォロワーのファンを誘い出す手法などは経験的常識。先輩芸人の飲み会のために後輩芸人が女性を集めて呼ぶ、そういった遊び方の中で生まれる大小のきわどい話が、さまざまな芸人のエピソードトークにも顔を出し、お笑いの世界では(一部の、しかし主流の)芸人の遊びとはそういう派手できわどいものとの認識があった。

だが、そこで行われていたことの解像度をグッと上げた文春記事を読んで、それはきわどいのではなく“アウト”であったことを悟った。