一言に「加齢による難聴」といっても、人によって聞こえ方や聞こえにくさは異なるので、補聴器を使う場合も細かい調整が必要になります。トレーニングやケアをしないと、自分に合う「聞こえ」になりません。ですから補聴器を買うときは、耳鼻科でしっかりアドバイスを受けて、本人に合った補聴器を選び、丁寧に調整してくれる販売店を見つけることが大切です。

補聴器も機械なので、多少の慣れが必要です。高齢になればなるほど、こうした機械を使うことに抵抗を持ったり、調整を面倒に感じたりして、せっかく買っても途中で使うことを断念してしまう可能性が高くなります。だからこそ、症状が進行してからではなく、できるだけ早いタイミングで検査をして、補聴器の利用を考えてほしいと思います。

聞き取りやすい話し方をする

耳鼻科での検査や補聴器の利用を考える一方で、本人が聞き取りやすい話し方をするようにしてあげてください。次のことに気を付けるとよいでしょう。

①ゆっくりはっきり区切って話す

早口でまくしたてると聞き取りにくいので、「ゆっくり」「はっきり」「区切って」話すことを心がけましょう。単語や文節を意識し、句読点のあるところを区切って話すと、聞き取りやすくなります。

②表情や口の動きをはっきりさせる

聴力が落ちてきている人は、相手の表情や口元を見て会話を理解しようとすることが増えます。楽しい話をするときは、楽しそうな表情や口の動きをするなど、非言語で伝わるコミュニケーションを大切にするとよいでしょう。

③正面から話しかける

後ろから話しかけると気付きにくいので、なるべく正面から話しかけるようにしましょう。正面からだと、「今から話しかけてくるな。集中して聞こう」という心の準備ができます。相手が聞こえにくいのではないかと思うと、つい耳元で話しかけたくなりますが、そうすると顔が見えないので表情が読み取りにくいですし、羞恥心をかきたててしまうこともあります。

早めに気付いてあげることが大事

加齢による難聴は、気候や気圧の変化により、多少聞こえにくさが変わることはありますが、基本的によくなることはほとんどありません。治療よりも、いかに聞こえにくさをカバーするかを考えた方がよいでしょう。

まわりが、聞き取りやすい話し方をすることは重要ですが、やはり早めに補聴器を取り入れることをお勧めします。補聴器をつけることで、会話にスムーズに参加できれば、周りと楽しくコミュニケーションをすることも可能になります。それが人生を豊かにし、認知症を防ぐことになります。ただ、年をとるほど、「加齢だからどうしようもない」と諦めて病院に行きたがらなかったり、補聴器を使うことに抵抗も強くなるので、補聴器に慣れるためにも、認知症リスクを早めに下げるためにも、早めに兆候に気付いて対応してほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。