対面では何も言えない夫

離婚を希望するA子さんから依頼を受けて、夫に受任したことと、まずは離婚について話し合いたいという旨を連絡すると、夫から、私の事務所に来ると返事がありました。

約束の日になって、夫が事務所にやってきました。とても大人しそうで、弁護士である私と対面してもずっと下を向いていて、A子さんから聞いていた話とは別人のようです。

暴言がつらいので離婚を望んでいるというA子さんの希望を伝えると、ますます下を向いて、「暴力や不倫をしたわけではないので……」と言います。録音があるのでと言うと、夫は何も答えなくなってしまいました。

結局夫は離婚をするともしないとも答えないまま、帰っていきました。

そこからはメールで離婚協議をすることになったのですが、今度は夫は非常に長いメールを送ってくるようになりました。

こちらが「こういった暴言がつらかった」と書くと、それら一つひとつに対して、「○月○日の妻の発言はこのような理由で非常識だったため、指導を行ったに過ぎない」など、数千字にわたって反論を書いてきます。事務所に来た時の態度とは別人のようです。

とはいえ、自分は悪くないと述べるばかりで、離婚をするともしないとも書いてきません。話し合いが進まないため、これ以上の離婚協議はできないと判断して、離婚調停を提起しました。

夫は弁護士を立てずに一人で調停にやってくるのですが、調停委員に対してもやはり下を向いているだけで、ほぼ何も話せないそうです。

暴言を悪いと思っているのかと聞かれても、やはり「暴力ではないので……」と答えるだけで、謝ってやり直したいと言うことも、だからといって開き直ることもしないということでした。

結局、暴言の録音と書き起こしを証拠として提出したところ、調停委員に「ここまで激しく怒鳴りつけていたら、やり直すのは難しいですよ」と言われて、夫は離婚に応じました。

こうしてA子さんは離婚することができました。

離婚届と外した指輪と印鑑
写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです

なぜ「内弁慶モラハラ夫」が生まれるのか

実はこのA子さんの事例は、昨今の「モラハラ離婚」のスタンダードな事例です。

妻に毎日のように度を超えた暴言を吐いている夫が、いざ離婚を求められると、弁護士にも裁判官にも何も言えず、まともな意思表示もしないまま離婚に応じる……。

モラハラ夫と聞くと、もともと気が強い夫が家で暴君のように振る舞っているところを思い浮かべる方が多いかもしれません。しかし実際はA子さんの夫のように、外では大人しい人が、家では別人のように妻や子どもに暴言を吐いているという、二面性のある人が多いのです。いわば「内弁慶モラハラ夫」です。

なぜこのような夫が多いのでしょうか。