自分がカスハラをしないために

ここまでは、カスハラを受けた側の対応についてお話してきましたが、自分が客の立場になったときのことについても触れておきたいと思います。

最近は人手不足からか、わからないことがあってもフロアにあまり店員がいなかったりと、問い合わせに手間がかかったり、やっと問い合わせができてもたらいまわしにされたりすることも増えているように思います。そうなると、ついひとこと厳しいことを言いたくなる場合もあるでしょう。

そのときに大切なのは言い方です。

感情に任せて言うと、カスハラとして扱われてしまい、まともに取り合ってもらえません。

人格や能力を否定しない、過去を持ち出さない

まず気を付けたいのは、対応してくれている相手の人格や能力を否定するようなことを言わないことです。「なんでこんな簡単なことができないんですか」「前に対応してくれた店員さんは、スムーズに対応してくれたのに(あなたはそれができない)」といった言い方をすると、相手も「話を聞こう」という気持ちを持てなくなってしまいます。

また過去のことを持ち出して、「前に来たときもそうだった」といった話をするのも避けましょう。特に不満がたまっているときには、過去をさかのぼって「あの時もそうだった」「その前もそうだった」と、つい過去の不満まで吐き出してしまいそうになってしまいます。「思い出し怒り」をして、さらに感情的になってしまいますし、対応している相手も、どの事象について対応すればいいのかわからなくなり混乱します。今起きている事実だけに焦点を当てて要望を伝えましょう。

そして、上から目線にならないことです。目的は、自分の不満や怒りを発散させることではなく、自分が不便を感じている状況の解消のはず。相手の事情を聞く姿勢を見せ、丁寧な言い方をする方が、目的は達成される可能性が高いでしょう。感情的に不満や怒りをぶつけると、一時はすっきりするかもしれませんが、結局不便は解消されず、さらに不満や怒りが高まるということになり、悪循環になります。

カスハラを非難しながら、いつの間にか自分もカスハラになっていた、ということがないように、こういったことも心得ておいてほしいと思います。

構成=池田純子

井上 智介(いのうえ・ともすけ)
産業医・精神科医

産業医・精神科医・健診医として活動中。産業医としては毎月30社以上を訪問し、精神科医としては外来でうつ病をはじめとする精神疾患の治療にあたっている。ブログやTwitterでも積極的に情報発信している。「プレジデントオンライン」で連載中。