結婚前は、妻の仕事に理解があり、家事や子育ての分担も積極的に見えたのに、結婚したり子どもが生まれたとたんに変わってしまう。こうした“一見ジェンダー平等”タイプのモラハラ夫は、なぜ生まれるのだろうか。モラハラ離婚に詳しい弁護士の堀井亜生さんは「女性の社会進出が進み、男女の収入格差が縮まっていく過渡期だからこそ、『男女平等』の理想と現実のギャップに居心地の悪さを感じて、モラハラをしてしまうのではないか」という――。
※本原稿で挙げる事例は、実際にあった事例を守秘義務とプライバシーに配慮して修正したものです。また、罵倒や叱責しっせきといったモラハラの言動について具体的に書いていますのでご注意ください。
家で子どもを膝の上にのせて仕事をする母親
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「優秀な女性はすてき」「僕が全力でサポート」の言葉に結婚を決意

外資系企業に勤めるA子さん(32歳)は、海外への留学経験のある優秀な女性で、精力的に仕事をこなして順調に出世していました。

そんな時、取引先の男性と知り合って、交際を始めることになりました。

仕事ができて多忙なA子さんにどこか遠慮がちだったこれまでの交際相手と違い、男性は「優秀な女性はすてきだよ」「これからの社会は君みたいな人が引っ張っていくべき」と、A子さんの能力をまっすぐに褒めてくれます。

忙しい仕事の合間を縫ってデートを重ね、結婚の話題が出るようになりました。A子さんが「結婚しても仕事をセーブしたくない」と希望を伝えると男性は「仕事を頑張る姿が好きだから、セーブしなくていいよ」と言ってくれました。

「仕事は君の生きがいなんだから僕が全力でサポートするよ」「今は男女平等の時代なのだから、ずっと平等な夫婦でいたいね」「子どもは無理につくらなくていいよ」と、ひたすら優しい言葉をかけてくれます。男性はSNSでも政治家の女性差別発言のニュースを鋭く批判したり、「女性の社会進出のための制度を作るべき」というコメントを頻繁に投稿していたため、見せかけのやさしさではなく、真に理解のある男性なのだと思いました。

仕事を続けたかったため、今まで結婚に前向きではなかったA子さんですが、心から、すてきな人に巡り合えてよかった、きっと運命の人だと思い、結婚を決めました。

家計も家事も公平に分担

結婚して2年間は、順調な生活が続いていました。A子さんと夫は毎月決まった額を家計に入れて、家事も公平に分担していました。

そんな中、妊娠がわかりました。A子さんは悩みましたが、せっかく授かったのだからと夫に「育児も頑張るから産ませてほしい」と言うと、「もちろんだよ」と言ってくれたので、出産を決めました。