加害者は加害行為の責任を被害者にも負わせようとする

快感の場合、本来喜ばしい感覚であるはずですから、性暴力被害の最中にその感覚が起きることは、非常に矛盾したものです。この矛盾を作り出すことで、加害者はその加害行為の責任の一端を被害者に押し付けようとしているのです。また、そのような感覚を引き起こすことで、被害者の身体の自由を奪うことに加えて、感覚をも支配しようとしていると言えます。

【図表1】「無理やり性交等をされる」被害にあった時期
出典=内閣府男女共同参画局「男女間における暴力に関する調査」令和3年3月

性別にかかわらず性的快感が被害の最中に起きることはありますが、ペニスを持っている人にとっては、それが別の意味を帯びてきます。それは、性的快感を抱いていることが他人から分かりやすいという点と、ペニスが持つ性的能動性という点の二つにあります。ここに、男性の性暴力被害の特殊性が表れてきます。

ペニスが持つ性的能動性ゆえ「本人が望んだ」と思われる

男性外性器は、刺激を受けると勃起や射精が起きます。これは他者から見ても分かりやすい変化のため、そのときに性的快感を抱いていることが簡単に他人にも伝わってしまいます。よく性教育の本では、勃起を起こす理由として性的な刺激が与えられると……と書かれていることが多いため、勃起をしたということに、本人の意思が介在しているように思われるかもしれません。

確かに、エロティックな視覚情報や想像も性的刺激として勃起を引き起こしますが、そのような本人の意識的な関与がなくても、陰茎の触覚が刺激され、それが適度な感覚刺激であるならば、反射的に勃起を引き起こすことがあります。

つまり、性暴力被害の最中に「触られたくない」「気持ち悪い」「怖い」「悲しい」「痛い」といったさまざまな不快な感覚や感情があり、全く望まない状況であると認識していても、性的快感が生まれる可能性があるということです。

実際、男性や男児に対する性暴力において、勃起や射精へと至らせる行為は珍しいことではないと、これまでの研究で明らかになっています。先ほど触れたように、性的快感を暴力の手段として使うことで、加害者は被害を受けた人の感覚をも従属させた気分になれます。

女性ももちろん性的快感を被害の最中に抱いていることがありますが、男性に特徴的なのは、その感覚を勃起や射精という生理的な現象によって簡単に知られてしまうという点にあります。そのときに加害者は「本当は気持ちいいんだろう」「身体は正直だ」などと、あたかも本人がそれを楽しんでいたり望んでいたりしたかのような言動をとることがありますが、これも巧妙な加害者の策略です。