不祥事の記者会見で、現場の社員に責任をなすりつけるような無責任な上司が後を絶たない。なぜ彼らは自分の非を認めないのか。精神科医で産業医の井上智介さんは「自己評価が高すぎたり、自己愛が強すぎると、自分の非を認められなくなる傾向がある。残念ながらこういうタイプの人は、会社で評価されて昇進し、上司になって部下に迷惑をかけることも多い」という――。
問題から逃げるビジネスマン
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「人のせいにする上司」はなぜ生まれるのか

ビッグモーターなど、不祥事を起こした会社の記者会見で、社長らが「知らなかった」「部下が勝手にやった」など、自分の非を認めず責任を他者に転嫁する姿を目にします。

ほかにも、たとえば自分のミスで納期が間に合わなかったのに「部下が締め切りを勘違いしてしまった」「部下の能力が低く、期限通りに終わらせられなかった」と部下のせいにする。また、クライアントに言われるがままに難しい納期を受け入れて、「やっといて」と部下に丸投げし、部下が何とか頑張って間に合わせたとしても、評価は上司が全部持って行ってしまう。

上司がこうした、自分の非を認めないタイプの人だと、部下の方は、自分の成果がきちんと評価されなかったり、上司の尻ぬぐいをさせられることになったりするので大変です。

こういった人たちは、なぜ自分の非を認められないのでしょうか。

高すぎる自己評価、強すぎる自己愛

自分の非を認められない人の多くには、「自己評価が高い」「自己愛が強い」という傾向があります。そのために、自分の判断や価値観が正しいと思ってしまうのです。

自己評価が高すぎたり、自己愛が強すぎたりすると、自分の誤りを認めることはプライドを傷つけ、自分に対するイメージ(セルフイメージ)が崩れてしまいます。また、自分の無能さをさらすように思えて恥ずかしいと思ってしまう。上司であれば肩書もあるでしょうから、地位や権威を失ったり、部下からの信頼を失ったりする恐怖もあって、なかなか認められないのでしょう。

一方で、こうした自己評価が高い人というのは、自信を持って仕事を進められたり、リーダーシップを発揮したりできる面もあるので、成果を上げて評価されることも多い。そうして実績や経験を積むほどに万能感が高まりますし、余計に自分の非を認められなくなってしまうのです。経営者や管理職の中に、自分の非を認められない人が一定数いることは、ある意味自然なことかもしれません。

しかし、周りの人、特に部下にとってはたまったものではありません。