「人のせいにする上司」はなぜ生まれるのか
ビッグモーターなど、不祥事を起こした会社の記者会見で、社長らが「知らなかった」「部下が勝手にやった」など、自分の非を認めず責任を他者に転嫁する姿を目にします。
ほかにも、たとえば自分のミスで納期が間に合わなかったのに「部下が締め切りを勘違いしてしまった」「部下の能力が低く、期限通りに終わらせられなかった」と部下のせいにする。また、クライアントに言われるがままに難しい納期を受け入れて、「やっといて」と部下に丸投げし、部下が何とか頑張って間に合わせたとしても、評価は上司が全部持って行ってしまう。
上司がこうした、自分の非を認めないタイプの人だと、部下の方は、自分の成果がきちんと評価されなかったり、上司の尻ぬぐいをさせられることになったりするので大変です。
こういった人たちは、なぜ自分の非を認められないのでしょうか。
高すぎる自己評価、強すぎる自己愛
自分の非を認められない人の多くには、「自己評価が高い」「自己愛が強い」という傾向があります。そのために、自分の判断や価値観が正しいと思ってしまうのです。
自己評価が高すぎたり、自己愛が強すぎたりすると、自分の誤りを認めることはプライドを傷つけ、自分に対するイメージ(セルフイメージ)が崩れてしまいます。また、自分の無能さをさらすように思えて恥ずかしいと思ってしまう。上司であれば肩書もあるでしょうから、地位や権威を失ったり、部下からの信頼を失ったりする恐怖もあって、なかなか認められないのでしょう。
一方で、こうした自己評価が高い人というのは、自信を持って仕事を進められたり、リーダーシップを発揮したりできる面もあるので、成果を上げて評価されることも多い。そうして実績や経験を積むほどに万能感が高まりますし、余計に自分の非を認められなくなってしまうのです。経営者や管理職の中に、自分の非を認められない人が一定数いることは、ある意味自然なことかもしれません。
しかし、周りの人、特に部下にとってはたまったものではありません。
自己肯定感が低いから非を認められない
一見矛盾するように見えるかもしれませんが、このような上司は、自己肯定感が低いところもあります。自己評価を必要以上に高く保ち、非を認めず、うまくいっていることにしなければ、自分を認められない。あるいは、人から褒められないと自分を受け入れられないのです。
一方、自己肯定感の高い人は、謙虚になることができます。いくら能力が高くても、自分はまだまだだと考えることができ、自分の至らなさも認めることができます。うまくいかなければ、自分のできなかったところに目を向けて改善しようとしますし、失敗したときも「私が至らなかったせいで申し訳ない」と部下に謝ることができます。
論破しようとせず「フィードバックを求める」姿勢で
では、自分の非を認めないタイプの人が上司になったら、どうしたらいいのでしょうか。
部下の方は、あとから責任を押しつけられないために、あらかじめ防御策をとっておく必要があります。
「この指示は、上司の言う通りやっていると危ないな」「この通りやって、あとでうまくいかなかった時に、私の責任にされてしまいそうだ」と思った場合は、あらかじめ自分の考えをしっかり伝えておきましょう。
ただし、そういう上司は、もともとそうした部下の苦言に対し、聞く耳を持つタイプではありません。「やる前からあきらめるのか」「前もこのやり方でうまくいったから大丈夫だ」などと、言いくるめられる可能性があるので、伝え方にはひと工夫が必要になります。
「○○の工程で最低1週間、△△の工程で最低1週間かかりますから、このスケジュールではどう見ても間に合いません」など、誤りを指摘して上司を論破しようとはしないことです。
「○○の工程で最低1週間、△△の工程で最低1週間かかるので間に合わないように思うのですが、どうすれば間に合わせられるでしょうか」「このスケジュール見積には、どこに穴があるでしょうか」と、フィードバックがほしいという姿勢で話します。
これは、上司と部下の健全なコミュニケーションですから、こういった姿勢で対話を重ねれば、上司も耳を傾けてくれる可能性が高くなります。
やりとりは記録に残しておく
ただ、ここで返ってくるフィードバックがまた、「普通は1週間かかるかもしれないが、頑張れば3日で終わるはずだ」「何でも私に聞くのではなく、自分で考えて工夫してみなさい」など、実現不可能なものだったり、理不尽なものだったりする可能性はあります。その場合は、「その納期では無理だと思う」と、自分の考えははっきり伝えておいたほうがいいでしょう。
そしてこうしたやりとりは、記録に残しておきましょう。そうでないと、最終的にうまくいかなかった場合に、「(部下が)できると言ったのに」「部下の能力が足りなかったから間に合わなかった」などと、責任を転嫁されてしまいます。記録に残し、責任の所在をはっきりさせておくことが重要です。
メールやメッセージ、チャットなどのやり取りを残しておくことはもちろん、口頭で受けた指示も、あえて「先ほど言われた○○に関して、私は○○や○○などの懸念を持っていますが、ご指示があったので作業を始めます」など、メールなどで送って、自分が懸念点を伝えたことを記録に残しておきます。こうした記録が、のちのち最大の防御となるはずです。
1対1のシチュエーションで伝えない
普段は、ここまででお話ししたような、「論破しようとしない」「記録に残す」といったコミュニケーションで何とか対応するとしても、他部署や取引先に迷惑をかけ、その責任を部下に転嫁するなど、あまりにひどい場合は、上司に直接進言しなければならなくなることもあるでしょう。その時には、1対1のシチュエーションでは伝えないよう、気を付けてください。
たとえば、1対1で「この納期はちょっときついですよ」と伝えても、「他の人はできている」「みんな頑張っているのに、そんなことを言うのはお前だけだ」などと突っぱねられてしまいます。ですから、同じ思いを持つ仲間を集め、複数で訴えることをお勧めします。問題だと考えている人が複数いることをわかってもらうのです。また、複数の人がその場にいれば、あとで「そんなことは聞いていない」などの言い逃れがしにくくなるはずです。
責め立てず、下手に出る
伝え方は、非常に難しいところです。部下の側も、これまでの不満がたまっていますから、つい、相手の誤りを責め立てたくなるところですが、この先も上司と部下の関係が続くことを考えると、関係性を悪化させるのは避けたいところです。
こういった上司は、自己評価が高くプライドが高いことが多いので、責められれば感情的になって、余計に態度を硬化させるでしょう。
ここは自分の怒りをぐっと抑えて、下手に出ながら伝える方が得策です。「期待に応えられず申し訳ありません。私もみんなも、あなたの要求に応えようと頑張っていますが、なかなか難しく、疲弊しています。何とかやり方を見直していただけないでしょうか」といった姿勢で伝えてみてください。
上司の上司に相談するには
最終手段が、上司の上司に相談することです。非があっても反省して改めようとせず、部下に責任を押し付けていることを示す、具体的な事例を集め、できるだけ感情的にならずに伝えるようにします。
この時も、自分1人ではなく複数の仲間と訴えること、記録に残しておいた証拠を用意しておくこと、上司を責め立てるのではなく、「私たちも上司をサポートしようと頑張っているが、どうにもうまくいかず困っている」という姿勢で伝えるなどの、工夫が必要です。
自分の非を認めない上司は、部下の手柄を自分の手柄のように見せていたり、ミスを部下のせいにしたりして、上役に評価されてきた可能性があります。また、無理な仕事を取ってきて、部下に押し付けながら実績を上げてきたことも考えられます。会社にとっては、実態がどうであれ、「仕事をたくさん取ってくる有能な社員」に見えている可能性があるのです。それを覆すためには、証拠を示すとともに、どれだけ複数の部下が困っているかを伝える必要があるでしょう。
自分の非を認められないと、自分のやり方を改善したり、成長したりすることができません。また、自分の非を部下のせいにするというのは、パワハラにもつながりますし、上司としての資質に欠けているといえます。ですから本来は、会社としてこうした人物を上司となる地位につけるのは、組織としてマイナスになるはず。なかなか簡単なことではないかもしれませんが、そういったことを理解してくれる人を探して、訴えることを考えてほしいと思います。