オスがメスに122回マウントして挿入に至らなかった日も

2012年2月10日、1R目は約90分間で24回のマウントがみられました。その24回目のマウントで成立したようで、休憩に入りました。そして、また、17分後からそわそわし始め、さらにその20分後に2Rが始まりました。67回のマウントが見られましたが成立することはなくいつもの収容時間をとうに過ぎていたことと、2頭の様子がだらけてきたため無理やり分離してその日は終わりました。

次の日の2月11日もミライの発情の兆候は続いており、2頭をグラウンドに出すなりそわそわし始め、9時38分から1Rが始まりました。しかし、その日はなんと分離した15時7分までの長いラウンドになりました。全部で122回のマウントが見られたにもかかわらず、一度も成立しなかったのです。さすがに2頭とも疲れたのでしょう、集中力もなかったようで分離することができました。

このような感じで交尾は行われました。こんなにたいへんな交尾なのですから、なかなか挿入できないキヨミズに対して「へたくそ」と野次を飛ばして笑ったり、「キリンの交尾は一瞬」などとあたかも簡単であるかのように表現したりしてほしくないのです。自分たちの子孫を残すために、キリンたちはあの独特な体型で挑んでいるのですから。私はキリンだけでなくさまざまな動物たちの繁殖に携わり、懸命に命を繋ごうとする姿に感動したことが多々ありました。一人でも多くの方が動物本来の生殖にかける真剣さを感じてほしいと思います。

南アフリカの野生動物保護区で交尾中のキリン
写真=iStock.com/Sunshine Seeds
※写真はイメージです

野生のキリンがオス同士で交尾するのはなぜか考えてみた

余談ですが、「野生のキリンは交尾の大半がオス同士」という研究結果が出ているのは、なぜだろうと考えました。

まだ、メスのミライがおらず、オスのキヨミズ1頭で飼育している時のことです。キヨミズが性成熟に達したであろう頃、コンクリートの壁の一部にあった柱に向かってマスターベーションを始めました。なかなかしつこく続けるため、キヨミズの胸はコンクリートで擦れてしまい、後々まで残る傷ができました。マスターベーションをする動物は他にもいますので、特別驚くことではありませんが、それはミライが来てからほとんど見られなくなりました。

つまり、野生のオスキリンは発情しているメスに巡り合う機会が頻繁にあるわけではなく、出会ったとしても自分よりも強いオスがいたら交尾はできませんので、メスと交尾ができないオス同士でマスターベーションをしているのでは……。そうなると、確率的にはオス同士の方がよく見られるのかもしれません。盛んにマスターベーションをするキヨミズを思い出して、そんなふうに考えてみました。

※発情期、発情周期、発情期間、妊娠期間はそれぞれ動物種によって違います。

タカギ ノネ(たかぎ・のね)
動物イラストレーター、ライター

静岡県浜松市生まれ。1991年に日本動物植物専門学院卒業。京都市動物園の飼育スタッフとなり、園内広報として発表した「キリンタイムズ」が人気に。キム・ファン著『ツシマヤマネコ飼育員物語』(くもん出版)、齋藤美保著『林にかくれるキリンを追う』(くもん出版)の挿絵を手掛ける。2022年よりフリーランスのイラストレーター、ライター、講演者として活動している