「キリンの交尾は一瞬」と言われるほど簡単じゃない

「交尾=挿入+射精」と定義すると、よくネットなどで見かける「キリンの交尾は一瞬で終わる」ということになり、簡単に思われてしまいますが、いやいや交尾だけ取ればそうかもしれないけどそんな表現はしてほしくない! と私は声を大にして言いたいのです。

というのも挿入までの時間が長く、挿入自体もそんなに簡単ではないからです。なぜかというと、キリンの体型を思い出してもらえばわかります。キリンは首も長いですが、同じくらい脚も長いです。他の哺乳類には見られないその特徴のために、縦長の体型をしています。交尾がたいへんなポイントは長い脚と背中の角度ではないでしょうか。まず、脚が長いのでお尻の位置も高いです。そして他の四つ足動物は背中(肩からお尻)が地面と水平に近い角度になっていますが、キリンは肩の位置がお尻よりもずいぶん高く、背中のラインは斜めになっています。

ですので、オスが立ち上がって前肢をメスの腰に掛け、その不安定な姿勢をしばらく維持してから挿入するということはたいへんなことだと思います。ということは、マウントした瞬間に挿入と射精を同時にしないといけなくなり、それまでに準備が必要になります。しかも、マウントしたからといって必ず挿入できるとは限らないのです。

フレーメンするオスのキリン
フレーメンするオスのキリン(写真提供=京都市動物園

縦長すぎる体型ゆえにうまく挿入できない!

私は当初、キヨミズは交尾に慣れていないのでうまく挿入できないのだと思っていました。が、よくよく観察していると交尾を含めた一連の行動にはどうやら規則性があるように思えました。他の動物園の人に聞いてみたり、野生のキリンの研究者にも聞いてみたりしましたが、個体差はあるもののやはり似たような行動が見られており、キリンが交尾に至るまでは時間がかかることがわかりました。

私が勤務していた動物園では夜はオスとメスは別の部屋で管理していたので、交尾できるのは日中にオスとメスを一緒にしている最長で7時間ほどだけです。2日にまたがってメスの発情が続いていることが多いので、交尾を観察できるのは1日目と2日目のグラウンドに出している時間のみとなります。その間の夜間は分けています(室内はグラウンドほど広くないため、室内で交尾するとケガや事故に繋がる恐れがあるのです)。

その中で、キヨミズはいったい何回マウント(マウンティング、乗駕ともいいます。前肢を上げて相手に馬乗りになる行動)したと思いますか? 第4子の時の繁殖では2日にわたっての観察となり、トータルで213回ものマウントが見られました。