半分以上解けるようになってからでいい

前項では、答えを丸写しにさせる勉強法を紹介しました。大人からすれば、子どもがわからなくても、「まずは自分の頭で考えてみなさい」「自分で考えることが大切なんだから」などと言いたくなるかもしれません。

しかし、自分の頭で考えるというのは、ある程度、学習が進んだ子どもが実力を試したり、知識の確認をしたりする上で、有効なことです。境界知能をはじめ、学習につまずきがあるお子さんは、わからないことだらけだと考えてください。わからないことのほうが多い子どもには、いくら自分で考えようとしてもどうしてもできない問題もあるのです。

本人の能力やペースを無視して、わからない問題ばかりに取り組ませていると、その子は「自分はなんでできないんだ」と無力感を覚え、やる気を削がれてしまいます。

家庭学習では、まずは、大半は解けるレベルの簡単な問題から挑戦させましょう。それができるようになれば、さらに少し難しい問題に取り組ませて……となりがちですが、ちょっと待ってください。

できない問題が続くとやる気を失う

教科学習では、定義という「決まりごと」が多く出てきます。例えば、算数では四則混合の計算式で計算するのに順番があったり、分数の足し算では分母を同じにしてから分子を足したり……とくに勉強が苦手な子どもは、決まりごとを覚えるだけでも精いっぱいです。

宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)
宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)

簡単な問題ができたからといって、それで決まりごとが身についているわけではありません。なんとか精いっぱいやって、まねることができただけかもしれません。

水泳にたとえると、やっと浮き輪なしで水面に浮くことができたのに、プールに放り投げて「次は25mプールを泳ぎきろうよ」と挑戦させるようなものです。

簡単な問題がようやくクリアできたときに、難しい問題をやらせてもほとんどできないのでは意味がありません。それどころか、できない問題が続くと、やる気を失ってしまうという弊害があります。

難しい問題に進むよりも、基本問題はほぼ大丈夫というくらいに繰り返し取り組んで、「意外と簡単なんだ!」と達成感をもってもらうことが先決です。そうやって自信をつけたあとに初めて、難しい問題にもチャレンジしようという気持ちが芽生えてきます。

例えば、中学生になった子が、小学生時代に苦手だった問題に取り組んだら、すぐに解けるものもあります。それは一度全体像を把握すると、理解度が向上することや、生活体験と照らし合わせて、簡単に解ける問題も出てくるからなのです。

学習がある程度、進めば、自然にわかるようになる問題も出てきます。今はわからなくても学習の無理強いはしないで、待ってあげてください。

宮口 幸治(みやぐち・こうじ)
立命館大学教授

日本COG-TR学会代表理事。京都大学工学部を卒業。会社勤務後、神戸大学医学部を卒業。精神科病院、医療少年院勤務を経て、2016年より現職。医学博士、子どものこころ専門医、日本精神神経学会精神科専門医、臨床心理士。著書『ケーキの切れない非行少年たち』が大ベストセラーになる。