どうしたら子どもが自分から勉強や宿題に取り組むようになるのか。児童精神科医の宮口幸治さんは「『勉強しなさい!』『宿題しなさい!』という声かけでは子どもたちは動かない。親は、子どもたちを見守る『伴走者』であってほしい」という――。(第3回/全3回)

※本稿は、宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)の一部を再編集したものです。

勉強中に顔を手で覆う男の子
写真=iStock.com/Thai Liang Lim
※写真はイメージです

子どもの成長のゴールは「自立」

私たちが、しんどさを抱える子どもたちを支援する目的はといえば、子どもによりよく成長してもらい、最終的には「自立」してほしいからでしょう。

では、子どもの成長をうながし、最終的に自立を目指すために、親や学校の先生など身近な大人たちができることは何でしょうか?

私は、周囲の大人には、子どもの「伴走者」であってほしいと願っています。

子どもが何かに挑戦したとき、つまずくこともあるかもしれません。そうして試行錯誤を繰り返す。つまずいて不安なときには、「大丈夫だよ。手を貸すよ」と声をかけ、子どもが必要なときにだけサポートするのが、伴走者です。

「伴走者」になるにはどうするか

子どもがやることに先回りして、「それは違うね」「もっとこうしたらいいよ」と口を出すのは、伴走者ではありません。先回りして手助けしたほうが、手っ取り早いかもしれませんが、それは子どもの発達・成長の妨げにもなってしまう行為で、子どもの自立というゴールを遠のかせてしまいます。

子どもを見守るときのポイントは、くっつきすぎず離れすぎずの距離感です。子どもにくっつきすぎて、やることを先回りして手を貸してばかりいると、自立を妨げてしまいますし、一方で子どもへの関心が薄く、困っているときに手伝えないでいると、子どもを不安にさせてしまいます。

「いつも見ているし、いつでも手伝うよ」という伴走者がいてこそ、子どもは安心して新しいことにチャレンジしていけます。失敗してつまずいても、立ち直っていけます。そうして、自分でできることを増やし、だんだんと自立というゴールに向かってほしいと願います。

「勉強しなさい」「宿題しなさい」では動かない

世のお母さん、お父さんは、「伴走者」として子どもを見守りたい――と思いつつも、それでもついチクチクと口出ししたくなる場面はあるでしょう。

例えば、家でゲームに夢中になっている子どもに対して、「少しは勉強したらどうなの!」「宿題は終わったの? まずは宿題しなさい!」などと小言のひとつも言いたくなるかもしれません。

境界知能(※)をはじめとした授業についていくのが難しいお子さんには、家庭での学習習慣も必要だと考えます。親御さんがお子さんに、もっと勉強する習慣を身につけさせたいと願う気持ちもわかります。

※境界知能:知能指数(IQ)でいうと「70以上85未満」で、知的障害と平均域のボーダーに当たる。

しかし、親御さん自身はいかがでしょうか。子どもは身近な大人である親をモデルにしながら、いろいろなことを学んでいきます。子どもに勉強してほしかったら、親も勉強している姿を見せることが一番と感じます。

子どもを動かすのは、「勉強しなさい!」「宿題しなさい!」と一方的に指示する言葉ではなく、「一緒にやろう」のひと声です。

子どもが気の進まないことや苦手なことをするには、親も「一緒にやること」が解決策になると思います。子どもは親に見守ってもらうことで、苦手なことでも行動に移しやすくなります。

授業についていくのが難しいというお子さんにお勧めの教材は、手前味噌ですが「コグトレ」を試してみてもいいと思います。遊び感覚で取り組めます。ただそれも子どもだけにやらせるのではなく、ぜひ、お母さん、お父さんが、お子さんと一緒に、コグトレから取り組んでみてはいかがでしょうか。

「宿題はやったの?」は無意味

子どもの「伴走者」になりたいとは思っていても、「うちの子は『宿題を今やろうとしていた』なんて言って、なかなかやらないんです。だから、私が強く言わないと」という親御さんもいるかもしれません。子どもについ言いたくなる気持ちもわかりますが、常に「やりなさい!」と言い続けることで、子どもが自ら行動するチャンスを奪っていることもあるのです。

 ゲームをしながら心の中で『そろそろ、宿題をやろうかな』
「まだゲームしてるの? 宿題はやったの?」
「今やろうとしてたんだよ」
「本当に? 早くやりなさいよ」
「ちゃんとやるからさ、ほっといて!」

もしも、子どもが本当に「今やろうとしていた」のであれば、「宿題はやったの?」のひと言は、子どもの出鼻をくじくことになります。やる気を削がれた子どもは、「もうほっといて!」と言い返すことになります。そこでもし、親に言われるままに宿題をやってしまうと、単に親の指示に従っただけという結果になってしまうからです。

一方、親からしてみると、「宿題はやったの?」と聞いて、それでもし子どもがたまたま宿題を始めると、「やっぱり、私から声かけしたほうがいいんだ」「言わないとやらないんだから」と、自分の声かけに効果があると誤解してしまいます。そうなると、その後も「宿題はやったの?」「早くやりなさい」と言い続けることになります。

しかし、子どもにやる気がないときは何を言ってもやりません。すると、親は「もっと強く言わないとダメなのか……」と勘違いして、より強く「宿題はしたの⁉」「早くやりなさいよ!」と叱り続けることになります。

宿題の無理強いはしない

子どもが家に帰って、宿題より先にゲームに夢中になっている姿を見ると、親としては「やれやれ」と思うかもしれませんが、子どもは学校でいろいろあってほっと一息つきたいのかもしれません。まずは「どう? 今日、学校は楽しかった?」などと、子どもに聞いてみましょう。すると、子どもは内心、「早く宿題やれって、言われないのか」とひと安心します。

親としては、「宿題を始めて、何かわからないことがあったら声をかけて」などと伝えて、宿題の無理強いはしないようにします。これが伴走者として、子どもが自主的に行動するためのサポートです。

ただし、親には忍耐が必要です。子どもが宿題を始めるまで時間がかかっても、取り組めたときには「ちゃんとやってるね!」と認めてあげましょう。

答えを丸写しさせてもかまわない

もしも、子どもが自分から宿題をやりたがらないのだとしたら、宿題のレベルがその子に合っていないということも考えられます。

人は、取り組む課題の半分以上ができなければ、やる気を失うと言われています。やる気を保つには、半分以上は間違えずにできる問題までレベルを調整する必要があります。ただし、クラスで一人だけほかの宿題を出してもらうのが難しい場合には、親が答えを用意して、それを見せて写させてもいいでしょう。

「そんなラクをさせてもいいの?」「自分の頭で考えさせなくていいの?」などと疑問や批判の声があるかもしれません。でも、答えを見せても大丈夫です。答えがわかってから、問題の意味がわかることもあるからです。

あるいは、「この答えになるには、どうやって考えればいい?」という教え方もいいかもしれません。親があえて答えを見せることで、宿題に取り組ませる方法をお伝えしましたが、それとは別に、子どもが親に内緒で、宿題の答えを丸写ししていた場合はどう対処したらいいでしょうか? 例えば、宿題として出されたドリルの巻末に解答ページがあり、それを丸写ししていたようなケースです。

だとしても、丸写ししたことを責めてはいけません。その背景にあるのは、宿題がわからないことがばれたくない、恥ずかしい思いをしたくない、親から叱られたくない、宿題ができていい子だと思われたい、といった不安だったり承認欲求だったりします。丸写ししたことを責めたり心配したりするのではなく、子どもの不安な気持ちを理解してあげることが大事です。

「わからなくても大丈夫。一緒にやろう!」と子どもに寄り添ってあげましょう。

半分以上解けるようになってからでいい

前項では、答えを丸写しにさせる勉強法を紹介しました。大人からすれば、子どもがわからなくても、「まずは自分の頭で考えてみなさい」「自分で考えることが大切なんだから」などと言いたくなるかもしれません。

しかし、自分の頭で考えるというのは、ある程度、学習が進んだ子どもが実力を試したり、知識の確認をしたりする上で、有効なことです。境界知能をはじめ、学習につまずきがあるお子さんは、わからないことだらけだと考えてください。わからないことのほうが多い子どもには、いくら自分で考えようとしてもどうしてもできない問題もあるのです。

本人の能力やペースを無視して、わからない問題ばかりに取り組ませていると、その子は「自分はなんでできないんだ」と無力感を覚え、やる気を削がれてしまいます。

家庭学習では、まずは、大半は解けるレベルの簡単な問題から挑戦させましょう。それができるようになれば、さらに少し難しい問題に取り組ませて……となりがちですが、ちょっと待ってください。

できない問題が続くとやる気を失う

教科学習では、定義という「決まりごと」が多く出てきます。例えば、算数では四則混合の計算式で計算するのに順番があったり、分数の足し算では分母を同じにしてから分子を足したり……とくに勉強が苦手な子どもは、決まりごとを覚えるだけでも精いっぱいです。

宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)
宮口幸治『境界知能の子どもたち 「IQ70以上85未満」の生きづらさ』(SB新書)

簡単な問題ができたからといって、それで決まりごとが身についているわけではありません。なんとか精いっぱいやって、まねることができただけかもしれません。

水泳にたとえると、やっと浮き輪なしで水面に浮くことができたのに、プールに放り投げて「次は25mプールを泳ぎきろうよ」と挑戦させるようなものです。

簡単な問題がようやくクリアできたときに、難しい問題をやらせてもほとんどできないのでは意味がありません。それどころか、できない問題が続くと、やる気を失ってしまうという弊害があります。

難しい問題に進むよりも、基本問題はほぼ大丈夫というくらいに繰り返し取り組んで、「意外と簡単なんだ!」と達成感をもってもらうことが先決です。そうやって自信をつけたあとに初めて、難しい問題にもチャレンジしようという気持ちが芽生えてきます。

例えば、中学生になった子が、小学生時代に苦手だった問題に取り組んだら、すぐに解けるものもあります。それは一度全体像を把握すると、理解度が向上することや、生活体験と照らし合わせて、簡単に解ける問題も出てくるからなのです。

学習がある程度、進めば、自然にわかるようになる問題も出てきます。今はわからなくても学習の無理強いはしないで、待ってあげてください。