性別も年代もくくる必要がない商品
【吉岡】何かにフォーカスした瞬間、「ジェンダーレス」とか「エイジレス」ではなくなってしまう。もちろん商売なので、ある程度コアターゲットに向けて訴求したほうが効率はいいのですが、ターゲット外にも、その商品をすごく好きな人は絶対にいるわけです。たとえば男性でもかわいいものが好きとか、女性でも男性の好むものが好きとか。それなのに「この商品はあなた向けではありません」と言われると苦しくなってしまう。
コーセーとしては性別も年齢も、くくる必要はないという発想の下、ブランディングを考えています。特に雪肌精は見た通りシンプルなデザインで、「女性向けです!」ということもないし、使用感は男性からも支持される品質設計になっています。羽生選手と新垣さん出演のCM放映の効果もあり、男性の購入者は昨年比約130%増加しました。
ユーザーにインタビューすると、「お母さんが使っているものを借りたので、初めて使った化粧水は雪肌精」という方が、男女問わずいます。1985年発売の雪肌精には40年近い歴史がある。その時点ですでに幅広いジェネレーションに使ってもらっている。この蓄積があるからこそ、ジェンダーも広げていける。そう考えています。
取材を終えて 桶谷功より
ブランド資産がいかに大事かを改めて実感した取材でした。たとえ「墓石」と言われようが、「雪肌精」という漢字のブランドロゴは強いブランド資産。このロゴがなければ、もはや雪肌精ではないと言っても過言ではないでしょう。新パッケージに、ブルーと白のカラーコード(色の記号性)を継承しましたが、色だけで雪肌精を連想してもらえるほど、色は強いブランド資産ではなかったということです。
「墓石」と言った若者がいたそうですが、人の見方は変わるものです。例えば、羽生選手や大谷選手の広告を見たら、「なんかこの漢字のロゴがカッコよく見えてきた」と言ったりするものなのです。人の見方を変える、パーセプションを変えることが、マーケティング・コミュニケーションの大きな役割です。
「雪肌精」には、長い歴史と世代を越えた多くのユーザーを持つ、というブランド資産があります。羽生選手や大谷選手を起用して、男性にユーザーを拡大することに成功しましたが、これも雪肌精のブランド資産があってのこと。男性が中高生で初めてスキンケアをしたとき、「母親が使っていた雪肌精を借りた」といった記憶が多くの人にあり、男性が使うことに違和感がないのです。これは、他の化粧品ブランドが真似してできることではありません。雪肌精というブランドだからできたことなのです。
構成=長山清子
大日本印刷、外資系広告会社J.ウォルター・トンプソン・ジャパン戦略プランニング局 執行役員を経て、2010年にインサイト社設立。初著『インサイト』(ダイヤモンド社)で、日本に初めてインサイトを体系的に紹介。他に『インサイト実践トレーニング』『戦略インサイト』(ともにダイヤモンド社)など。商品開発・ブランド育成などのコンサルティングを行っており、消費財・サービス・テック系企業などで実績多数。インサイト オフィシャルページ