仕事用バッグに求められるのはシンプル&エレガンス

そこで安東さんは極力シンプルなデザインにして製造工程を減らし、コストカット。それは、仕事用のトートバッグはサイズが大きいぶん、存在を主張しすぎないほうがいいという持論にも帰結する。飽きがこないシンプルなアイテムであれば、どんなファッションにも合わせやすいし、商談やプレゼンなどのきちんと感が求められるシーンでも違和感がないのだ。

ちなみにこの芯地づくりにも、安東さんらしいこだわりエピソードがある。自分でありとあらゆる材料を取り寄せ、何十という試作にトライしたのだが――。

「同じ生地でも貼り合わせをする素材によって全然貼り具合が違うのです。納得のいく芯地の固さを極めたくて、ものすごい数のサンプルを制作しました。スエード調生地を生産する大手メーカーの重役の方にその話をしたところ、『個人の会社でそんなことをやっている人はいない!』と驚かれました(苦笑)」

さらには、PCケースの留め口はマグネットではなく、ボタンに。なぜならマグネットの磁気がPCのデータを壊す可能性があるからだ。そしてPCの出し入れ口も、ほんの少しだけカーブを加えた。安東さんは「柔らかな印象を与えるし、ものも取り出しやすくなるのです」と理由を語る。

“入れても、出しても美しい! 軽量キャンバストート&高機能PCケース”
撮影=小林久井(近藤スタジオ)
“入れても、出しても美しい! 軽量キャンバストート&高機能PCケース”

PCケースは、トートバッグにピッタリ収まる大きさにしているので、内部の仕切り代わりになってモノが整理しやすい。さらにはニュアンスのある美しい発色、ショルダーストラップのちょうどいい長さ、満員電車の中でも邪魔にならない大きさなど、こだわりポイントを数え上げればキリがない。しかも、安東さんの独りよがりにならないよう、色にしても、サイズ感にしても、働く女性たちの意見を聞いたり、平均的な身長の女性に持ってもらい大きさを調整したりなどという作業も怠らない。

デザインに関する細かい要望は、工場の職人に伝えるが、口頭ではなかなかニュアンスを理解してもらいにくい。だから、安東さん自らがパターン(製図)を引くことが多い。こんなふうに、時間を忘れて没入してしまうほど精魂を傾けてつくり上げたバッグは、使うほどにじわりとその良さが伝わってくる。