Apple社などスマホ開発企業も対策を強化している

オンライン習慣が持つリスクを指摘する研究論文が出版され始め、スマホなどを販売する企業もその存在を無視することができなくなってきました。2018年に発表されたApple社のiOS12には、「制御機能」としてスクリーンタイム機能が追加されました。

榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)
榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)

スクリーンタイム機能の追加は、何を意味しているでしょうか?

おそらく、企業による訴訟対策ではないかと考えられます。将来、「スマホのせいで子どもの脳発達が阻害された」「大人でも脳が萎縮してしまった」などと、スマホを製造・販売する企業に対して訴訟を起こす人が出てくるかもしれません。

そうなると、企業は多額の損害賠償を支払わなければならない可能性が出てきます。そのリスクを避けるため、スクリーンタイム機能を追加して、「自分たちで適度に使用時間を制限して使ってくださいね」と、自己責任として押しつけてきたわけです。

スマホを悪影響なしに使いこなすことが人類の課題

「ピンチはチャンス」という言葉がありますが、まさに私はいまの状況を好機であると感じています。なぜなら、スマホという自己管理能力を鍛え前頭前野を育てる上で最高の教材が存在しているからです。多くの人が依存状態におちいってしまうほど、魅力的な機能がたくさんつまったスマホを、もしも上手に使いこなすことができたら、ヒトはさらに進化することができるかもしれません。

脳の模型
写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです

多くの人々がオンライン習慣にどっぷりと浸かってしまい、前頭前野の機能が失われ滅びゆく運命を辿ってしまうのでしょうか。

それとも、スマホという危険でかつ便利なものを使いこなし、前頭前野の機能を手放すこともなく生き延び、さらなる繁栄を遂げていくのでしょうか。

GIGAスクール構想により、1人1台のデジタル機器が確実に子どもたちの手にわたります。賽は投げられたのです。その子たちが社会の担い手になる約40年後の未来はどちらに転んでいるでしょうか?

21世紀を生きる私たちの手に握られているのは、スマホではなく、人類の未来です。

榊 浩平(さかき・こうへい)
東北大学加齢医学研究所助教

1989年千葉県生まれ。2019年東北大学大学院医学系研究科修了。博士(医学)。認知機能、対人関係能力、精神衛生を向上させる脳科学的な教育法の開発を目指した研究を行なっている。共著に『最新脳科学でついに出た結論「本の読み方」で学力は決まる』(青春出版社)がある。

川島 隆太(かわしま・りゅうた)
東北大学加齢医学研究所教授

1959年千葉県生まれ。89年東北大学大学院医学研究科修了(医学博士)。脳の機能を調べる「脳機能イメージング研究」の第一人者。ニンテンドーDS用ソフト「脳トレ」シリーズの監修ほか、『スマホが学力を破壊する』(集英社新書)、『オンライン脳』(アスコム)など著書多数。