スマホを使い続けると、成長期の脳はどうなるのか。小中学生がスマホを使うことの影響を調べてきた榊浩平さんは「インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳が全く発達していなかった。例えば、中学入学時にスマホを使い始めると、中学3年時点で小学6年と同じ能力のまま高校受験をしなければならなくなる」という――。

※本稿は、榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)の一部を再編集したものです。

11歳の子どもたちの脳の発達を3年間追跡調査した

みなさんもこんな経験が一度はあるはずです。

紙にペンで文字を書く代わりに、スマホで文字を打つようになると、漢字が書けなくなります。インターネット上の地図が導くままに運転をしていると、道を忘れてしまいます。

インターネットの使用で脳をサボらせるオンライン習慣がついてしまうと、一体どんな悪影響があるのでしょうか? 東北大学加齢医学研究所では、平均年齢11歳の子どもたち223人を3年間追跡調査することで、インターネットの使用と脳の発達について調べました。

子どもたちのインターネット使用習慣を7段階の項目(1:機器を持っていない/2:全く使用しない/3:まれに使用する/4:週に1日使用する/5:週に2~3日使用する/6:週に4~5日使用する/7:ほぼ毎日使用する)で聞きました。同時に言語能力に関する知能検査を行ないました。そして、脳の発達を調べるために、MRIを用いて、子どもたちの脳の写真を撮影しました。

まず追跡前の時点で、子どもたちの脳の発達および、言語の能力には差がありませんでした。次に、追跡調査の結果【写真1】を見てみましょう。3年後に同じ計測を行なった結果、インターネットをたくさん使っていた子どもたちほど、3年間の言語能力の発達が小さく、幅広い範囲における脳の発達にも悪影響が見られました。黒い部分が、発達に悪影響が見られた脳の領域を表しています。幅広い範囲に色が塗られていることがわかります。

前頭前野や記憶や学習に関わる海馬に悪影響が出ていた

この写真は、脳の神経細胞の本体が集まっている灰白質の発達を表しています。神経線維が張り巡らされている白質についても、幅広い領域で発達への悪影響が見られました。これまで、同様の研究をテレビやゲームでも行なってきましたが、ここまで脳の広範囲における発達に悪影響が見られたのは初めてのことでした。

発達に悪影響が見られた脳領域には、認知機能を支える前頭前野、記憶や学習に関わる海馬のほか、言葉に関係する領域、感情や報酬を処理する領域などが含まれています。どれも私たちが生きる上で必要となる大切な機能です。

スマホを3時間以上使うと勉強を頑張っても平均以下に

特に衝撃を受けたのは、インターネットを「ほぼ毎日使用する」と回答した子どもたちの脳の発達は、ほとんどゼロに近い数値となっていたことです。つまり、インターネットを毎日使っている子どもたちは、3年間で脳が全く発達していなかったのです。

例えば、中学校へ進学するときにスマホを買ってもらった子どもがいるとしましょう。もしこの子が、毎日スマホでインターネットを使用する生活を3年間続けてしまったら、恐ろしい未来が待っているかもしれません。

この子は約3年後、高校受験を迎えることになります。周りの子どもたちが健全に発達を遂げていく中、この子の脳は小学校6年生の時点で発達が止まっています。つまり、中学校3年生の中に、ひとりだけ小学校6年生が紛れ込んで試験を受けているような状態になってしまうのです。勝ち目があるわけありませんよね。

【図表1】のグラフを見てみてください。スマホ等を1日3時間以上使っている子どもたちは、どれだけ勉強を頑張っても、きちんと睡眠をとっていたとしても、成績が平均以上に届いていませんでした。脳の発達が止まってしまっているわけですから、スマホを使った分だけたくさん勉強をすれば、悪影響を補って帳消しにできる、とはいかないのです。

肺の写真でタバコの害に気づくように脳の写真を見て

私が通っていた中学校は、いわゆる荒れた学校でした。しばしば校内でタバコの吸いがらが見つかっては、問題になっていました。あるとき、生活指導の一環でタバコが健康に与える悪影響を説明する集会が開かれました。集会では、タバコによって真っ黒に染まっていて萎縮した肺の写真を見せられました。幼き日の私は、その写真を見て背筋が凍るような恐怖を覚えました。その瞬間に「タバコは身体に悪いんだ」と、私の脳に強烈に刻まれたのです。結果として、私は今日まで1本もタバコを吸ったことはありません。

肺も脳も、鏡に映して自分で見ることはできません。タバコで肺が真っ黒に染まるように、知らず知らずのうちに、スマホで脳の発達が止まっていたら恐ろしいことだと思いませんか? そのため、私が子どもたちを相手に講演をするときには、必ず【写真1】を見せるようにしています。幼き日の私が真っ黒な肺の写真を見たときと同じように、「スマホは脳に悪いんだ」と子どもたちの脳に刻まれてくれることを願っているのです。

Apple社などスマホ開発企業も対策を強化している

オンライン習慣が持つリスクを指摘する研究論文が出版され始め、スマホなどを販売する企業もその存在を無視することができなくなってきました。2018年に発表されたApple社のiOS12には、「制御機能」としてスクリーンタイム機能が追加されました。

榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)
榊浩平(著)、川島隆太(監修)『スマホはどこまで脳を壊すか』(朝日新書)

スクリーンタイム機能の追加は、何を意味しているでしょうか?

おそらく、企業による訴訟対策ではないかと考えられます。将来、「スマホのせいで子どもの脳発達が阻害された」「大人でも脳が萎縮してしまった」などと、スマホを製造・販売する企業に対して訴訟を起こす人が出てくるかもしれません。

そうなると、企業は多額の損害賠償を支払わなければならない可能性が出てきます。そのリスクを避けるため、スクリーンタイム機能を追加して、「自分たちで適度に使用時間を制限して使ってくださいね」と、自己責任として押しつけてきたわけです。

スマホを悪影響なしに使いこなすことが人類の課題

「ピンチはチャンス」という言葉がありますが、まさに私はいまの状況を好機であると感じています。なぜなら、スマホという自己管理能力を鍛え前頭前野を育てる上で最高の教材が存在しているからです。多くの人が依存状態におちいってしまうほど、魅力的な機能がたくさんつまったスマホを、もしも上手に使いこなすことができたら、ヒトはさらに進化することができるかもしれません。

脳の模型
写真=iStock.com/SDI Productions
※写真はイメージです

多くの人々がオンライン習慣にどっぷりと浸かってしまい、前頭前野の機能が失われ滅びゆく運命を辿ってしまうのでしょうか。

それとも、スマホという危険でかつ便利なものを使いこなし、前頭前野の機能を手放すこともなく生き延び、さらなる繁栄を遂げていくのでしょうか。

GIGAスクール構想により、1人1台のデジタル機器が確実に子どもたちの手にわたります。賽は投げられたのです。その子たちが社会の担い手になる約40年後の未来はどちらに転んでいるでしょうか?

21世紀を生きる私たちの手に握られているのは、スマホではなく、人類の未来です。