自我が育つためには安定した愛着の基盤が必要

主体が失われる要因はいくつかあります。その一つは、愛着不安に関係するものです。発達段階でトラウマを負ったことによって、愛着を基盤とする自我の形成がうまくいきません。自我が育つためには適切な関係、特に養育者との安定した関係が必要です。しかし、そうした関係が得られなかったために自我も不安定な状態にあります。自己のイメージは過大か過小なままで定まりません。過緊張、過剰適応なども相まって自己の感覚がよくわかりません。機能不全家庭の場合は、親の機能不全を代替する役割が自分そのものと思わされていることもしばしばです。

泣いている男の子を家で抱く親
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もう一つの要因は、脳の失調です。脳においては自己認識に関わる領域が目の上から始まり、ちょうど脳の中央を通るように存在しています。

眼窩前頭皮質、内側前頭前皮質、前帯状皮質、後帯状皮質、とうからなります。

これらは、自分の位置や自己認識、主体性を支えてくれる部位だとされます。「内受容感覚」といって、自分の体の中で起きている感覚を感じられることが自己の主体性の源となります。しかし、トラウマを負っていると、それらが機能しなくなることがわかっています。

他者との関係もうまくいかなくなる悪循環

さらにもう一つの大切な要素として、対人関係の障害があります。人間は社会的な動物であり、自己も社会的な関係からもたらされます。トラウマは、その関係を切断してしまうのです。自律神経の機能不全と脳の失調のために対人関係がうまく築けなくなることも影響します。他者との関係から定まるはずの自己がなく、結果として他者との関係もうまくいかなくなる悪循環が起きてしまうのです。

トラウマの原因となった出来事を周囲とうまく共有できないことも自分を失わせる要素の一つです。本来、トラウマの要因となる出来事は、社会から適切な意味付けがなされる必要があります。それがトラウマの予防や克服に役立ちます。

しかし、多くの場合、共有がうまくいきません。理解されずに失望する。「あなたにも悪いところがあったのでは?」と無理解にさらされて傷つく。さらに、その劇的な体験は言語化できないためにうまく伝えることができないことも悪く作用します。

トラウマは言語野が機能低下するため、イメージできてもうまく言語化されないことがわかっています。そのために、劇的な体験を抱えた自分と、理解しない周囲との間にさらなる断絶が生まれるのです。こうした断絶も自分を見失う結果につながります。