当事者不在の学校感染症対策を今こそ変えるとき

以上の結果や、文部科学省の通達以降も慎重を期して黙食を続けている学校が多い現状を考えると、学校で実施されている日常的な感染対策を緩和する際には、まず黙食の廃止を徹底することが肝要に思われる。

最後に、学校感染症対策では、いわゆる「当事者不在の意思決定」という構図が3年間続いていた点を指摘したい。危機であればこそ、専門家だけではなく幅広い利害関係者を含めた意思決定が重要になる点が、リスクコミュニケーションをはじめさまざまな学術分野から主張される(参考5)なかで、文部科学省や教育委員会は保護者や子ども自身から丁寧な意見聴取の機会を設けようとはしておらず、今後予定される感染対策の緩和についても影響調査をする機運は見られない。直面したことのない事態を迎えるにあたり必要なのは、フラットな視点で虚心坦懐に実態を観察しデータに基づく議論を行うことだろう。今後の教育や将来のパンデミックへの知見を蓄積する意味でも、教育行政の取り組みには期待したい。

※参考文献
1.2021年度コロナ禍の子どもの心の実態調査 摂食障害の「神経性やせ症」がコロナ禍で増加したまま高止まり | 国立成育医療研究センター
2.政府の5類感染症への見直しにあたり|熊谷俊人(千葉県知事)|note
3.高久玲音,&王明耀. ポストコロナに向けた子どもたちの学校生活の現状―2022年6月の学校生活調査の結果と予備的解析―. 社会保障研究, 7(3), 224-235.
4.橋下徹氏 子供たちのマスク着用で私見「マスクなしの教育の方が圧倒的にメリットある。強烈な要請を」― スポニチ Sponichi Annex 社会
5.吉川 肇子(2022)『リスクを考える:「専門家まかせ」からの脱却』(ちくま新書)

高久 玲音(たかく・れお)
一橋大学経済学研究科准教授

1984年生まれ。2015年に慶応大学で博士号取得(商学)。一橋大学経済学研究科准教授。専門は医療経済学、応用ミクロ計量経済学。全世代型社会保障構築会議構成員も兼任。