所得税、学生ローンも優遇

子どもがいる母親は、所得税も優遇される。もともと、ハンガリーの所得税は一律15%と、EU諸国の中でもかなり低く、代わりに消費税が27%と世界最高レベルの高さだ。とはいえ、4人の子どもを持つ母親は、生涯所得税を払わなくてよいというのは、かなり斬新といえるだろう。

免除の対象はそれだけにとどまらない。若者の経済的負担を軽減しようと、2022年から、25歳未満の若者は男女関係なく、また、子どもの有無にかかわらず、所得税が免除されるようになった。

さらに、今年からは、満30歳の誕生日を迎える前に子どもを持った母親は、30歳になった年の12月31日まで所得税が免除になるという。これは、12週目以降の胎児より大きい子を持つ女性が対象で、既婚、未婚、ひとり親にかかわらず、出産前でも免税になる。また、養子縁組をした母親も免除になる。

また、大学の学費に充てる学生ローンを借りている女性が第1子を妊娠した場合、出産後3年間はローンの返済を休止することができる。そしてその後第2子を出産した場合は、返済額の半額、第3子を出産した場合は全額が免除される。また今年からは、30歳未満の女性が大学在学中、または終了後2年以内に第1子を出産した場合、それ以降の学生ローン返済が全額免除されることになった。

とにかく若いうちに子どもを産んでほしいという政府のメッセージが、これでもかというほど、伝わってくるようだ。

祖父母にも育児手当

もう一つユニークなのは、孫の面倒を見る祖父や祖母にも、孫が2歳になるまで育児手当が支給されるという制度だ。ハンガリーでは子どもが生まれると、母親か父親に「育児手当」が給付されるが、親が仕事に復帰した後は、家庭で孫の面倒を見る祖父母に手当が出るのだ。

「例えば、子どもが1歳になって母親が仕事に復帰した場合、その母親は育児手当がもらえなくなります。でもその後は、子どもの世話をしているおじいちゃんかおばあちゃんが、育児手当をもらえるのです」と語るのは、ハンガリーに25年在住し、ニュースレター「ハンガリー経済情報」を発行している日本人ジャーナリスト鷲尾亜子さんだ。この政策は、大家族政策を進めるハンガリーらしいものだといえる。

ただしこれは、子ども一人に対して給付される額が増えるわけではなく、あくまで両親の代わりに祖父母が受け取るというもの。受給条件の1つは、母親が正規労働者で医療社会保険料を納付していること。支給額は出産前の給与の70%で、上限は最低賃金の2倍の70%となる。そこから所得税などを引いて、実際にもらえる額は、日本円でひと月約8万5000円までになる。