少子化対策が政権の看板政策に

「どこにお金を配分すべきかについては、さまざまな意見がありますが、ハンガリーの政策は結構クリエーティブです。よくある所得控除だけでなく、マイホームの補助金や所得税の免除など、『そんなことまで?』とびっくりするような要素が入っています。やはり、小手先の政策くらいでは『はい、産みます』とはならないですから」と鷲尾さんは言う。

2013年から2019年のハンガリーのGDP成長率は4.1%で、EUの平均成長率の2.1%を上回る。ただ近年は、エネルギーが高騰し、インフレ率も上がっており、財政状況も厳しくなっている。昨年は、一部の公共事業を棚上げしたほか、エネルギー産業、航空業界、金融などの大企業の利益に対する超過利潤税を導入している。

「オルバーン政権は2010年に政権を握って以来、ずっと家族政策に力を入れてきました。政権としてもこれを象徴的な政策としてアピールしてきたので、たとえ財政が苦しくなっても何とか財源を捻出していて『家族政策は絶対に縮小しない』という意地を感じます」と鷲尾さんは分析する。

若者に手厚い経済支援をする理由

少子化対策の一環として、若者に手厚い経済的支援を行っているハンガリーの例は、日本にも参考になるのではないだろうか。

早く結婚して若いうちに第1子を生むと、第2子、第3子と生む可能性が高まる傾向があり、少子化対策に効果があるといわれている。ハンガリーの家族政策担当のホルヌング・アーグネシュ次官も、政府のホームページのインタビューで次のように語っている。「最も重要なのは、子どもが欲しい人誰もが安心して子どもを産めるようにすることですが、できるだけ早く、できれば母親が30歳になる前に出産してもらい、さらに弟や妹も迎えられるとなお良いと思います。母親が30歳までに第1子を出産すると、2人目、3人目を出産する可能性が高まることが、複数の研究からわかっています」。ちなみに日本の国立社会保障・人口問題研究所が2022年に行った調査によると、初婚年齢が低いほど子どもの数は多くなる傾向がみられた。

また、ハンガリーのオルバーン政権は、多くのEU諸国と違い、移民をなるべく受け入れないという方針を貫いている。多くのヨーロッパの国で見られるように、移民の増加は労働力が増える反面、その国の人口動態を変えてしまう可能性があるからだ。そのため、政府としては、ハンガリー人には、海外に移民するのではなく、国内に残って子どもを産んでほしいという意向が強く、子育て支援もその一環であるともいえる。

日本の外務省の海外在留邦人数調査統計によると、日本から海外に生活の拠点を移した永住者は20年連続で増加しており、2022年は前年比で2万人増加した。10年前と比べると14万人以上増えている。日本では少子高齢化が急速に進んでいる上、海外にも人が流出しているのだ。もちろん、日本とハンガリーの事情は異なるが、日本でも外国人の移住者が少ないということを考えると、ハンガリーのように若者支援にフォーカスした、かなり大胆な政策シフトが必要なのではないだろうか。