働き方改革は欠かせない
パラノビチ大使に、日本の少子化対策について聞いたところ「日本は高齢者に重点を置いた経済活動(シルバーエコノミー)をうまく進めてきていると思いますが、同時並行して、若年層や子どもたちのための『幸せな家庭』(ハッピーファミリー)経済活動も行われたらと願っています」という答えが返ってきた。
ハンガリーのブダペストでは、2年に1度、デモグラフィック・サミット(人口問題について議論する会議)が開催されているという。「今年9月にも開催されるこのサミットに、岸田総理にもいらしていただき、日本の家族政策や人口問題についてお話いただければ光栄です」
岸田首相が今年3月までに取りまとめると言われている少子化対策。海外に披露しても恥ずかしくないものを作り上げてほしいものだ。
ただし、政府の対策だけで少子化に歯止めがかかるわけではないと鷲尾さんは指摘する。
「日本はやはり、就労時間が長すぎます。ハンガリーでは、夕方5時を過ぎて働いている人は、一部のエグゼクティブを除けばごく少数です。夜9時や10時まで働いている人なんてほとんどいませんし、土日は家族と過ごすのが当たり前。幼稚園の送り迎えはもちろん、子どもを病院に連れてくるお父さんの割合も多いです。日本は、女性も男性も働く時間が長すぎて、まず仕事でエネルギーを使い果たしてしまっているのではないでしょうか」
少子化対策は、働き方改革でもあるのだ。
国からのメッセージが伝わるか
ハンガリーの政策は、かなり極端な部分もあるし、お金もかかる。しかし、国として「少子化を防ぐためにあらゆることをやる」という強いメッセージが伝わってくる。
近くに頼れる両親がおらず、夫は夜遅くまで仕事。たった1人で子育てをしている女性はまだまだ多い。「子育ては女性の仕事。育休は奥さんがとれば十分じゃないか」と、心のどこかで思いながら部下に接している昭和の化石のような上司は会社にいないだろうか? 子どもは2人の子どもなのだから、2人で育てるのは当たり前。女性は妊娠してから1年近くもお腹の中で赤ちゃんを育み、出産も命がけだ。せめて育児は、「男性にもがんばってもらいたい」と言いたくなる。
今や日本の共働き世帯は専業主婦世帯の倍以上で、多くの夫婦が共働きだ。育休から仕事に復帰してからも、仕事と子育ての両立に苦しむ夫婦もたくさんいる。シングルマザー、シングルファーザーの家庭なら、なおさら厳しい状況に置かれているだろう。
岸田政権も異次元の少子化対策というのなら、所得制限の撤廃や児童手当の拡充だけではなく、あらゆる大胆な政策を打ち出し、社会全体で子育てを支える仕組みを作るべきだ。大がかりな働き方改革の断行、父親の育児休業をさらに促進するなど、子育てする人を孤立させないためにどのような支援が求められているのかを真剣に探ってほしい。効果のある政策を今、打ち出さない限り、少子化を止めることは難しいだろう。
上智大学外国語学部卒業後、1991年ジャパンタイムズ入社。政治、経済担当の記者を経て、2006年より報道部長。2013年より執行役員。同10月には同社117年の歴史で女性として初めての編集最高責任者となる。2000年、ニーマン特別研究員として米・ハーバード大学でジャーナリズム、アメリカ政治を研究。2005年、キングファイサル研究所研究員としてサウジアラビアのリヤドに滞在し、現地の女性たちについて取材、研究する。著書に『The Japan Times報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ)、国際情勢解説者である田中宇との共著『ハーバード大学で語られる世界戦略』(光文社)など。