定年後はそもそも退職金をいくら運用に回すべきなのか

退職金を全額投資に回すのはおすすめできません。定年近くまで投資をしてこなかったなら、なおさらです。投資は「冷静に判断すること」が必要不可欠ですが、全額投資することで冷静さを欠いてしまうことがあるためです。

退職金をもらう前の預貯金がどれくらいあるのかによっても変わりますが、退職金が2000万円であれば1000万円ほどを預貯金や個人向け国債などの安全資産に割くとよいでしょう。個人向け国債は「元本割れしない」、預貯金は「すぐに現金を引き出せる」点がメリットです。

国が発行している「個人向け国債」は、毎年2回利息を受け取れ、満期になると全額返済される商品です。また、金利が0.05%より下がらないため安心して運用できます。

頼藤太希・高山一恵『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)
頼藤太希・高山一恵『マンガと図解 定年前後のお金の教科書』(宝島社)

個人向け国債には3種類あります。発行時の利息が満期まで変わらず満期が3年の「固定3年」、同じく金利が変わらず満期が5年の「固定5年」。半年ごとに利息が変わり満期が10年の「変動10年」です。金利が上がればそのぶん利益も増えるため、変動10年がおすすめです。2023年1月募集の変動10年の利率は0.33%です。

リスクを取らずにお金を増やすなら、「退職金専用定期」の利用も検討するとよいでしょう。「退職金限定」「退職から○カ月以内(○年以内)」といった金融機関ごとの条件を満たせば、普通預金より高い金利で預けられるサービスです。

ただし、高い金利を受け取れるのは最初の1回のみです。住んでいる地域の複数の銀行に退職金専用定期があれば、金利が下がったタイミングでほかの金融機関に乗り換えるとよいでしょう。

「おすすめ」に惑わされない

投資に回す場合は、投資のタイミングを複数回に分けましょう。「月に50万円投資・計20回」「月に100万円投資・計10回」「1景気サイクルの5年間で積立投資をする」などです。投資先は投資信託やETFがおすすめです。

投資信託やETFの選び方は、まずは「低コスト」であるかどうか。購入時手数料(販売手数料)がかからないもの、信託報酬は年0.1〜0.3%のものです。そうなると、当然インデックス型投資信託になりますが、以前の記事で紹介した「世界株式インデックスファンド」が良いと思います。

金融機関の「おすすめ」は、あくまで「自分たちの利益を増やすため」という意味であることは、ご理解いただけたと思います。この“おすすめ”の意向は、金融機関などによくある「人気投資信託ランキング」にも反映されていますので、店頭で案内されるランキングにも引っかからないようにしましょう。

頼藤 太希(よりふじ・たいき)
マネーコンサルタント

株式会社Money&You代表取締役。中央大学商学部客員講師。慶應義塾大学経済学部卒業後、外資系生命保険会社にて資産運用リスク管理業務に従事。2015年にMoney&Youを創業し、現職へ。女性向けWebメディア『Mocha(モカ)』、YouTubeチャンネル『Money&YouTV』、Podcast『マネラジ。』、書籍、講演などを通して日本人のマネーリテラシー向上に注力している。『はじめてのNISA&iDeCo』(成美堂出版)、『定年後ずっと困らないお金の話』(大和書房)、『マンガと図解 はじめての資産運用』(宝島社)など書籍90冊、著書累計150万部超。日本証券アナリスト協会検定会員。宅地建物取引士。ファイナンシャルプランナー(AFP)。日本アクチュアリー会研究会員。