根強い「大企業神話」

ここまで読んで、マネーリテラシーの高い方にとっては、「なぜ勧められるままに投資してしまうのだろう」と疑問に思うことでしょう。また、「退職金の一部ならともかく、ほとんどを投じてしまうのはなぜなのか」と。

まず、お勧めされるままに、金融商品を購入してしまった背景には「大企業神話」「政府系機関神話」があります。大企業の会社員や公務員で、特に年配の人に多いのですが、「大企業や政府系機関が言っているのだから間違いない」と信じてしまっていることです。よって、大手金融機関の担当者が勧めるのだから間違いないだろうと信じてしまうのです。

電卓で計算するセールスマン
写真=iStock.com/kazuma seki
※写真はイメージです

そして、退職金のほとんどを一気に投資してしまう理由ですが、長い間、我慢して生きてきた、抑圧されて生きてきた人は、一度たがが外れると、歯止めがきかなくなる傾向にあるようです。退職後は自由に豊かに暮らしたいという思いも人一倍強いからかもしれません。

読者のみなさん自身がそういう人生を生きてこないと理解が難しいかもしれませんが、実際こういったケースをたくさん見てきました。

窓口の推奨商品に投資をして、儲かればいいが実態は…

さて、大事なのは退職金で投じた金融商品の運用成績です。推奨商品に投資をして、儲かっていれば文句はないでしょう。

あくまでも当社の相談実績では、一部運用成果は出た商品はあるものの、全体では大きなマイナスになっています。直近のマーケットでは、2019年〜2021年は米国株を始め世界的にリスク資産バブルでしたので、儲けがあるのは当然の状況なのですが、なぜマイナスになってしまうのでしょうか。

運用成果が上がっていたのは、米国株に投資をするアクティブ型投資信託。大きくマイナスになっていた元凶は、カバードコールや通貨選択などオプション付き投資信託や仕組債です。

2019年〜2021年は米国株の収益率が高かったので、米国株のアクティブ型投資信託も儲かってはいるのですが、なぜインデックス型投資信託ではないのか。金融機関側は、アクティブ型投資信託を販売すると、購入金額の3%の「販売手数料」が得られ、投資信託を持っている間にかかる手数料「信託報酬」が年1〜2%が得られ続けるので、販売したくなるインセンティブがあります。インデックス型ではなくアクティブ型を提案してしまうのは、手数料収入を多く得たい金融機関の狙いが透けて見えます。

次に、投資の知識が乏しく、定年後、リスク許容度が決して高くない人に対して、カバードコール(原資産を保有しつつ、その原資産のコールオプション[買う権利]の売りポジションをとる投資手法)や通貨選択などオプション付き投資信託、仕組債といった仕組みが複雑な商品をなぜ提案するのかですが、これについても金融機関の懐事情が垣間見えます。当然、オプション付き投資信託や仕組債は、他の金融商品と比べて手数料が抜群に高い訳です。つまり金融機関が儲けることができます。

仕組債とは、オプションなどを用いて、元本や利息の支払いに株価指数や為替レートなどの金融指標の変化による条件がつけられた債券です。投資初心者にとってはそもそも「債券」に安全なイメージが強く、窓口では「お金が増える仕組みが施されている安全性の高い債券」と説明されているのかもしれません。しかし、想定以上に下落リスクが大きく、投資した人の多くが大損をしている状況だったといえます。

実際、証券・金融商品あっせん相談センターでの紛争解決手続き終了事例のうち、仕組債は38%でトップ(2021年9月まで1年間)になっています。21年7~9月期の手続き終結事例で多いのは70~80代の高齢者の申し立てです。「定期預金を中途解約して仕組債の購入を勧められ、多額の損失が発生した」などの主張が多くあります。

以上、窓口で勧められる金融商品は「手数料が高い」「仕組みが複雑」「リスクが高い」ものが多く、実際の運用成績もプラスどころか大損してしまう状況になっているということなのです。