女であることの弱みを見せてたまるかと思ってきたけれど

自分の弱さやできないことを隠すのではなく、明らかにしていこうという転換は、岸井さんが社内で常にまとってきた、「鎧」を脱ぐことにもつながった。

「部下にも素直に、『今日は、寝れていない』とか、平気で言うようになりましたね。それを聞いた部長は一般職や課長に、『今日は岸井さん、寝不足だから、2回でも3回でも根気よく説明してやって』とか、言ってくれるんです」

こうなれたのは医師の言葉だけでなく、いろいろな気づきがあったからだ。夜遅くまで仕事をしてハイになり、鎧を脱いだ姿を見た社員が、「岸井さんって、そんな感じなんですね」と驚いた時に、「もしかしたら、“素”でいていいのかも」と初めて思えた。専門家からの「岸井さん、“素”で行っちゃいなさい。もう、鎧は脱いじゃって」というアドバイスも、背中を押してくれた。

男性優位の職場で、女であることの弱みを見せてたまるかと、鎧で“武装”してきた人生だった。それを岸井さんは潔く、脱ぎ捨てた。更年期になったことで、揺るぎない自分が崩れるのを知った岸井さんだからこそ、自分の中の新しい扉を開くことができたのだろうか。

岸井さんは「この靴」と、足元を見てふっと笑う。「まだ鎧は一部、残っているんですが……」と。

7センチはある白いハイヒール
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
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忖度しないで意見を言う

コロナでオンライン会議が主体になったことも、自分を変えるきっかけとなった。

「これまで相手の表情を読み取ってしまい、言いたいことを我慢したり、男性上司が同意してくれる答えを探して言っちゃったりする感じがあって……。オンラインは表情を読まなくてもいいので、私の中でもう忖度そんたくはしないと決め、自分の意見をバンと言うようにしたら、とても仕事がしやすくなりました。なるべく人の顔色を見ないようにしようと、今、少しずつ努力して変わろうとしています」

自分の意見をきちんと言う、声を上げなければならないと気づいたのは、森喜朗元首相の「わきまえた女」発言がきっかけでもあった。

「あれ、最初は私も黙っていました。でも海外から声が上がり、声を上げていない日本の女性も変わらないといけないと思って、声を上げるようになりました。『女性はヒステリーだし、すぐに泣く』という決めつけに対抗するには、発言する、発信する、言っていくしかないんです。同じ考えの仲間を作ることも、大切ですね」

岸井さんは社内にそうした女性の仲間がいることで、大きく助けられている。組織が違っても気楽に相談ができ、愚痴も言い合える存在がいるのは、大きな強みだと心から思う。

「志が同じ女性の仲間は、足の引っ張り合いがないですね。男性は足を引っ張ります。あることないこと、言いますから」