※本稿は、ジェーン・スー『おつかれ、今日の私。』(マガジンハウス)の一部を再編集したものです。
取り返しのつかない昔の失言が頭をぐるぐるめぐる
気づくと、同じことばかり考えている。そういう日がもう何日も続いている。こういうときの「同じこと」はたいてい、えらくネガティブなことか、ありえないほどポジティブなこと。たとえば前者は取り返しのつかない仕事上の失敗や、誰かを傷つけてしまった失言、言い返せなかった昔の別れ話。後者なら、「もし私が○○だったら」系のシミュレーションや、ちょっといいなと思った人と距離を縮めていく妄想。今回は、残念ながら前者だった。
仕事上の大事な場面で、私がとんでもない失言をしたのはずいぶんと前のこと。なのに、近頃そればかり思い出し、日が経つのと反比例して記憶がどんどん鮮明になっていく。相手が着ていた服、私からは見えないはずの自分の表情、私が口を開いた瞬間に凍り付いた空気の色。慌てて取り繕い、かえって事態が悪化したこと。こんなに鮮やかに思い出せるなら、脳のなかで記憶の捏造が始まっている可能性は十分にある。日を追うごとに、細部がありありと浮かんでくるんだもの。そのたびにヒュッと息が止まり、私はギュッと目をつぶる。「あぅ……」と小さな声が漏れてしまうこともある。そして考える。どうしてあんなことを言っちゃったんだろう。しかも、得意げな顔で。
自分の浅はかさに幻滅
こうやって自分の浅はかさに幻滅したことは、一度や二度ではない。
ちゃんと正しく、ユーモアを持って寛大に生きたい。不用意に他者を傷つけることのない、思慮深い人になりたい。周りを見渡すと、私以外の大人はみなそれができているように思える。先の先を考え、相手を慮って行動しているように。どうして私はそれができないのだろう。どんどん気分が暗くなる。