「単なる老化」と放置しない
①から⑤のような身体の衰えについては「単なる老化だ」「自然なことだから」と、大ごとにとらえずそのままにしてしまいがちです。しかし、少しの違和感を見過ごさず、早めに地域包括支援センターに連絡しましょう。
⑥から⑫の認知に関わる変化については「認知症なのではないか」と驚いて、慌てて動き出す人が多いです。本人抜きで、子ども世代だけで精神科に相談に来られることもあるのですが、残念ながら、本人抜きで病院に来られても、私たち精神科医にできることはありません。本人以外の家族の話を聞いただけでは、診断ができないからです。
ですから心配なことがあったら、まずは地域包括支援センターに連絡しましょう。そのほうが二度手間になりません。どの病院に連れていったらいいか相談することもできますし、受診する際に親が抵抗した場合でも、担当の人がうまく説明して同行してくれたりすることもあります。
早ければ早いほどいい理由
確かに体は衰えていて、手すりはつかんでいるけれど一人で階段の上り下りはできる。物忘れはあるけれど、すべて忘れているわけではないし、コミュニケーションはとれる。「まだ介護が必要なほどではないだろう」と、地域包括支援センターに連絡することを躊躇する人は多いです。でも、まだ元気にみえるうち、早いタイミングで親が住む地域の専門家たち(つまり地域包括支援センター)の手を借りることが大切です。
なぜなら医療も介護も、早ければ早いほどいいからです。病気が進行してから病院に来られても、医者ができることが限られてしまうように、介護も、体や認知の衰えが進行してしまってからでは、支援を受けるのがどんどん困難になってきます。
介護はどうしても、ケアマネジャーや介護士など、外部の「他人」の手が必要になるのですが、高齢者は年を取れば取るほど、家族以外の人が家に入ってくることに抵抗を示すようになるからです。「親を見捨てるのか」と強い拒否反応を示すことも少なくありませんし、そうすると子どもの方も、打つ手がなくなり追い詰められてしまいます。
ですから、親ができるだけ元気で、まだ身体的にも精神的にも余裕のあるうちから、地域包括支援センターの専門家に入ってもらってコミュニケーションすることに慣れておく。親も、他人が家の中に入ってくることに慣れておく。そして、地域包括支援センターの人たちに、親のことをよく知ってもらうことで、お互いが気持ちよく必要な支援を受けられるようになります。