自己表現ベネフィットが得られるコミュニティー
HISが21年1月に始めたオンラインサロン「TABIFLEEEEEK(タビフリーク)」も、まさに「自己表現ベネフィット」の好例でしょう。「旅好きな人が安心して集まれる場を作ろう」との思いから結成されたコミュニティーで、実はこの中でも、メンバーの自己肯定感に繋がる現象が見え始めているのです。
もともとこれは、フェイスブック上の機能を活用して「いま○○を旅しています」とライブ中継するなどして、メンバー同士が繋がれるコミュニティー。
あるとき、このメンバーの一人が「子どもたちの体験格差をなくしたい」と、ケーキ店や航空業界など複数の協力を得て、職業見学ができるツアーを考案しました。
オンラインなら、親が忙しく外に出にくい子どもも、自宅から参加できるだろうとの発想です。おそらく企画したメンバーは、「社会のために何かがしたい」「誰かの役に立ちたい」との思いを、ツアーの実現によって叶えたいと願ったのでしょう。
企業は3つの価値を満たしてこそ顧客から選ばれる
こうした「自己実現ベネフィット」や、先の「機能的ベネフィット」「情緒的ベネフィット」は、いずれも経営学者でカリフォルニア大学名誉教授のデビッド・アーカーが分類した考え方です。
一般に「機能的ベネフィット」は、「安い、早い」を売りにするファストフードや「近い、便利」を強調するビジネスホテルのように、突き詰めると価格競争に陥りがち。だからこそ、以前ご紹介した通り、現代は「情緒的ベネフィット」を強調すべきだと言われます。
ところがアーカーは、さらにその上の段階があると考えます。それが「自己表現ベネフィット」。とくに近年、SDGsが叫ばれるなかで、企業は「機能×情緒×自己実現(社会貢献)」という3つの価値を満たしてこそ、顧客に長く愛される、といわれるようになりました。
たとえば「このパソコンは機能的、カッコいい、しかも自分らしい」と感じさせるアップルのPCや、「このコーヒーは美味しい、ホッとする、しかも誰かの役に立てる気がする(フェアトレード/途上国の人々の公正な取引を後押しする)」と感じさせるスターバックス コーヒーなどは、まさにその代表です。
HISは、ほかにも現地の講師や占い師らとオンラインで繋ぐ「スキルシェア」や、日本で入手しにくい商品などを現地と繋いで紹介・販売する「ライブコマース」など、オンラインによる様々な試みにトライしています。
その多くは、まだ「機能的ベネフィット」や「情緒的ベネフィット」に留まっているように見える。でもこの先、参加者の自己実現を叶えるプランを次々と具現化できれば、他社との差異化に繋がり、オンラインの分野で長く愛されるブランドへと進化できるのではないでしょうか。
立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。