24時間ライブツアーで得られる“旅以上の体験”

ところが、勇川さんたちは“その先”を考えた。オンラインをリアルの代替としてではなく、「オンラインならではの魅力を探り、価値を極めよう」と決意したのです。

これが「情緒的ベネフィット」、すなわち商品やサービスを所持、体験することで利用者が得られる、プラスの“感情”に繋がる価値。楽しさや安心感、充実感、高級感などが、よく例に挙げられます。

たとえば、21年7月にスタートした「24時間ライブツアー」。ここで勇川さんたちは、参加者たちの意外な「情緒的ベネフィット」を発見しました。

24時間ライブツアーの様子
写真提供=HIS
24時間ライブツアーの様子

24時間ライブが、もし「24時間、世界各地を繋ぎ、あちこち旅した気分になれる」というだけなら、「オンラインは、距離を越えられて便利」「お得」という機能的ベネフィットに留まってしまう。

ですが、いざツアーを実施してみると、24時間というあまりの長さに、ツアー途中で眠ってしまう参加者がいた。

そのとき、参加者同士が「あ、○○さん、寝ちゃったね」「起きてるみんなで頑張ろうよ」など励まし合い、連帯感を共有しながら、繋がりや楽しさ、すなわち「情緒的ベネフィット」を体感していたのです。

自己肯定感が高まる旅

筆者が22年12月に参加した、同社のオンライン体験ツアー(「香港 セントラル 街歩き」)でも、似た現象が見られました。

動画用のカメラを携えて「セントラル(中環)」の街中を案内する、現地ガイドのシュウヘイさん。彼が人気の現地みやげについて語っている最中、チャットに参加者から「これって○○ですか?」との質問が入った。

そのとき、シュウヘイさんが答えるより前に、別の参加者が「あ、私知ってます」と書き込みで回答。すると、回答者と質問者は「ありがとうございます!」「いいえ、私の知識がお役に立ってよかった」と温かい会話を交わし、満足感を得たようでした。

同時に、「私の知識が役に立って~」と答えた回答者は、おそらく「自分の知識は無駄じゃなかった」「人の役に立てた」と自己肯定感を高めたはず。

これこそが、マーケティングでいう「自己表現ベネフィット」。商品やサービスを所持、体験することで可能になる、自己表現や自己実現の価値をいいます。