郊外や地方の物件は資産価値が上がらない
「ただ、2021年あたりから感染対策をしながらの生活に慣れてきて、『やっぱり便利な場所がいいよね』と、都心周辺に戻る動きがあり、都心の物件価格が高騰しています。郊外や地方なら確かに広い家は買えますが、資産価値を考えた場合は、都心ほど上がらないので、買い替えは厳しいでしょう。地方からいずれまた都心に戻ろうと思っている人は、新たに不動産を買い増すくらいの資金計画が必要になります」(山下さん)
地方に移る人が増えている背景には、国が地方創生を訴えていて、移住者に支援金を出しているということも一因です。さらに、人口減少が課題となっている地方自治体は、地域と関わる人々である“関係人口”の創出を進めて移住促進を図りたいので、さまざまなサポートをしています。
移住促進のオンラインイベントなどを手掛けている倉重さんは、「移住促進の考えが進んでいる地域ほど移住そのものをゴールにしていません。それよりも関係人口=地域のファンを増やしたほうがいいことに気づき始めています」と語ります。
たとえば、「週一副社長」という取り組みを進める鳥取県は、関係人口を大幅に増やしています。これは、都市部で本業を持ちながら、「地方で働いてみたい」「ビジネス経験を生かして地域活性化に関わりたい」という人が、副業・兼業を前提に「週1で地方企業の副社長になる」というものです。3年前の開始以降、応募者は年々増加。2021年度は、3000人以上に上りました。
「まずは、興味を持って関わってもらうことが大事です。イベント参加などで情報収集することは、移住の第一歩です」(倉重さん)
また、「移住する場合は、いきなり不動産を買うのは失敗するリスクが高いので、まずは実験的に賃貸で住んでみることから」と、山下さん。
「場所によっては移住者向けの住宅を安く貸してくれる自治体もあるから、そういう制度を利用するといいですね。たとえば、山形県の上山市では移住支援の一環として、お試し居住施設を設置しています。市内の企業での研修等を受ける人は、最大1カ月利用できます。利用料金は、9泊10日までは無料。11日目から1日500円。そのような制度で何カ所かに住んでみて、自分で住みやすさを調べてから決めましょう」
都心・郊外・地方に住むメリット・デメリットはそれぞれにあります。何を重視するのか、よく考えて選択しましょう。
それぞれ強い思いを抱えて地方に移住した4人の方にインタビューしました。自分がどんな移住をしたいか、考えるヒントにしてください。
内閣府が推進している「移住支援金」は、東京23区に住んでいる、もしくは勤務している人が地方などに移住して就労・起業した場合、世帯当たり最大100万円、単身者は最大60万円支給されます。さらに、地域の課題に取り組む観点を持った起業を行うと、最大200万円の「起業支援金」もプラスされます。移住支援金は、これまでは地方の企業に就職することが条件でしたが、2021年度から東京の会社に勤めながらの移住もOKに。
ネイティブ代表取締役
シンクタンクを経て、2000年よりデジタルマーケティング専門のベンチャー企業に創業期から参画。16年に地域マーケティング専門企業「ネイティブ」を起業し独立。全国で観光や移住促進に関わる事業を展開。
山下和之(やました・かずゆき)
住宅ジャーナリスト
住宅・不動産分野で取材・原稿制作、講演、メディア出演などを行う。著書に『住宅ローン相談ハンドブック』(近代セールス社)、『はじめてのマンション購入 成功させる完全ガイド』(講談社ムック)など。