「暑い暑いと文句ばかりいって、最近の若者は根性が足りない」とする説は本当なのか。国際ニュース週刊誌『ニューズウィーク日本版』は「1926年は歴史的猛暑で、群馬県で5月に小学生15人が倒れるという出来事があった。しかしこのときの気温は27度だった」と指摘する――。(第3回/全3回)

※本稿は、栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。

イラスト=徳永明子
栗下直也、ニューズウィーク日本版編集部『くらしから世界がわかる 13歳からのニューズウィーク』(CCCメディアハウス)より
地球温暖化は、全世界共通の課題です。世界中で穀物が不作になったり、水が枯れてしまったりすれば、私たちの命に直結します。それだけではありません。地球温暖化が平和をうばうなんてこともあるのです。温暖化にどう向き合えばいいのか考えてみましょう。

アニサキス食中毒が急増している

【ジョンソン】絶対嫌です、生の魚なんか食べたくないです!

【彦】なにいってんだよ、それでも江戸っ子か!

【ジョンソン】いや、ワタクシ、スウェーデンのストックホルム生まれですから……。

【うめ】こら、店先でけんかはやめなさい。どうしたのよ?

【彦】釣りに行ったタナカから、「大漁だったから、食べに来なよ!」ってLINEラインが来たんだよ。だからジョンソンも誘ってるんだけど、「生の魚なんて食べません!」って、さっきからガンコでさぁ。

【うめ】外国のかたは火を通さない魚を食べないかたも多いからねぇ、仕方ないわよ。

【ジョンソン】ええ、ワタクシの双子の兄のマイケルは刺身が大好きなので、ワタクシもたまに食べていたのです。ところが、先日、兄がアニサキス食中毒で病院に運ばれまして。

【うめ】あら、それはお気の毒だったねぇ。サバやアジに寄生するアニサキスによる食中毒被害が確認されるケースは最近、増えているらしいわね。

【彦】兄がアニサキス! 気合いが足りないんだよ、気合いが!

【ジョンソン】Oh(オゥ)……。これがセイシンロンというやつですか。そんな昔の人みたいなこといわないでください。アニサキスは気合いの問題ではありません。日本でアニサキスによる食中毒の報告は2000年代の初めは年間数件でした。ところが、2021年は344件です! 被害に遭っても医療機関に行かない人も多いから、実際には数千件ともいわれているそうですよ。

【うめ】ジョンソンさん、とてもくわしいのねぇ。

【ジョンソン】ええ、兄が運ばれて怖くなって調べましたから。アニサキスはクジラやイルカの体内で産卵します。その卵はフンとともに海中へ排出されます。その卵をプランクトンのオキアミなどが食べるんですね。そして、そのオキアミをサバやアジが食べるので、私たちが刺身を食べると、アニサキス中毒になって強い吐き気がしたり、お腹が痛くなったりするんです(※1)

【彦】うーん、でもさ、アニサキスは前から存在したわけでしょ。なんで急に被害が拡大したんだよ?

【ジョンソン】それにはいくつか原因が考えられているんですが(※2)、温暖化が大きな原因といわれています。水温が上がり、オキアミが増える。するとオキアミを食べる魚が増えて、アニサキスが寄生する魚の数や魚の種類が増えた可能性があるのです。

※1 アニサキスはマイナス20℃以下で24時間以上冷凍するか、じゅうぶん加熱すれば死滅します。「酢で締めれば大丈夫」というのは誤りで、酢では死にません。欧米では魚の生食の冷凍処理が義務化されていますが、日本では刺身や寿司などの生食は文化になっています。生食するときは目で見て発見するしかありませんが、取り除ききれない場合もあり、食中毒を引き起こしてきました。ただ、最近では、魚に瞬間的に大電流を流しアニサキスを殺す技術が開発されています。試作機では99.9%以上の殺虫率を実現しており、期待が高まっています。
※2 鮮度を落とさずに運べるようになって、各地から生で食べられる鮮度の魚が運ばれるようになり、アニサキス被害に遭う確率が高くなったともいわれています。