損切りができるようになるには
何か問題があることが予想されても、それをそのまま変えずに放っておいて悪くなった場合、それは環境や人のせいにすることができます。ところが明確な意思を持って変え、それによって悪くなった場合は変えた自分の責任になる。だからなかなか変えられないのです。
ビジネスのように結果が出るまでに時間のかかるものであれば、どこに責任があるのかが曖昧になることもあります。ところが投資や資産運用の場合、結果はあっという間に出てきます。何しろ株は上がるか下がるかのどちらかしかないわけですから、買ったり売ったりしたその直後から結果はすぐ出ます。だから見通しを誤って失敗した場合でも素直に自分の間違いを認めることができずなかなか損切りできないのです。しかも売った後に上がってしまうという恐れもあるとなればなおさらです。だからどうしても“売る”という行為に躊躇せざるを得ないのです。
これを防ぐにはまず投資する先の企業分析をきちんとおこなうことです。有価証券報告書、少なくとも決算短信ぐらいはきちんと読み込んで、自分なりの判断をした上でそれでも保有し続けるのが良いか、損切りしてしまった方が良いかを論理的に冷静に考えるべきなのです。
ただし、これは長期投資の場合の話です。短期売買で投機的に利益を得ようということであれば、一定のルールを作って機械的にそれを実行することでしょう。例えばよく言われている「10%ルール」のように買値から10%上がっても下がっても機械的に売却するといったやり方です。ただし、こういうやり方はあくまでも便宜的なものに過ぎず、それを繰り返していると最終的にはあまり利益を得ることはできないでしょうから、私は決してお勧めはしません。やはりある程度きちんと企業財務の基本を勉強してから株式投資は始めるべきだと思います。
人間の「損をしたくない気持ち」は強い
人間は本質的に損失回避性が強いと言われています。わかりやすい言葉で言えば「儲からなくてもいいから損をしたくない」という気持ちを強く持っているということです。したがって利益を得るためにチャレンジすることよりも挑戦した結果、損をすることの方を強く恐れるものです。いつもは会社の中で「上は事なかれ主義でチャレンジしない」とか批判はしているものの、いざ自分が美容院を変えるという決断に直面するとなかなか変えようという決断ができないのと同じことなのです。もちろんこれには個人差がありますから、一概には言えないものの、人間が持っている「現状維持バイアス」というのはかなり強い力を持っていると考えた方がいいでしょう。
ただ、リスクを取らない限りリターンは得られないというのも永遠の真実です。自分なりの考えを持ってきちんと判断した上でリスクを取るということは大切なことです。投資する上ではこれを決しておろそかにしてはなりません。
大手証券会社に定年まで勤務した後、2012年に独立し、オフィス・リベルタスを設立し、代表に。資産運用やライフプランニング、行動経済学などに関する講演・研修・執筆活動などを行っている。近著に『定年前、しなくていい5つのこと』(光文社新書)など。