今年に入って、株式市場は不安定な状況が続いている。個人投資家は何に気を付ければいいのか。経済コラムニストの大江英樹さんは「何もする必要はありません。不安に駆られて最も安いタイミングで売ってしまうということにならないように、ただじっとしていればいいのです」という――。
スマホの株取引アプリのチャートを見ながら「売る」「買う」ボタンのどちらを押すか迷う指先
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年初から続く波乱の相場

今年に入って株式市場は波乱が続いています。この10年ほどの間は、途中小幅な調整はありましたが、一昨年のコロナショックの時にごく短期間には大きく下がったものの、その後はそれまで以上に回復し、高値を付けたという展開は日米共に同様です。

ところが今年に入ってからは、市場全体に暗雲が垂れ込めるように、不安定な動きが続いています。例えば日本の場合、日経平均でみると年初から3月初めまでの2カ月間で約15%下がりました。その後8月中頃までには約18%上昇したので、年初とほぼ同じ水準になっています。ところがその後1カ月余りで再び下落し、以後は一進一退の動きとなっています。結果として、年初からは11.5%の下落というのが9月末時点の状況でした。

アメリカの場合はさらに振れ幅が大きく、こちらも年初からは何度か上げ下げを繰り返しながら、年初からの比較では21.5%の下落ですから、日本の倍近い下げとなっています。したがって今年のように市場が上がり下がりを繰り返す時は、株式投資をしている人の多くが不安な心理になることは確かです。では、こういう状況の時にはどう対応すれば良いのでしょうか。

何もしなければ10倍になっていたのに

結論から言えば、“何もしなくていい”ということです。

こう言ってしまうとあまりにもあっさりし過ぎているように思われるかもしれませんが、これはまちがいなく事実です。投資家が失敗する最大の理由は売買を繰り返すことにあります。アメリカの代表的な株価指数であるS&P500について、1983年~2013年までの30年間で見るとその間の上昇率は年率で11%余りになっています。ところが同じ期間、S&P500に連動する投資信託を持っていた人の利回り平均は3.69%にしかなっていないというデータがあります。

ひとくちに30年間と言いますが、その間には株価の上り下がりは数え切れないぐらいありました。例えば大きな下落でいうと、1987年10月19日のブラックマンデーではNYダウ平均株価が一日で22.6%も下落しました。でも何もせずにそのまま持っていれば、その30年間でほぼ10倍になっているのです。

さらに言えば、この2年間ほどの間でも同じような現象は起きています。投資信託の売買によって投資家が実際に得た平均的なリターンを「インベスターリターン」と言いますが、ある投資信託会社が販売しているS&P500に連動する投資信託の場合、ファンドのトータルリターン(ファンドの値上がり+分配金を合計した収益率)は23.61%であるにもかかわらず、インベスターリターンは12.94%と半分近い数字にしかなっていないのです。