「意見」と「人格」は切り分ける

私自身、イベントや研修でファシリテーターを担当することがありますが、まずは「何を話しても安心安全な場である」という環境づくりを大切にしています。

こうしたファシリテーターの言葉が、意見が言いやすい会議の環境をつくっていきます。

場づくりをした上で、「時間も限られているので、いったん、方向性を確認しませんか」など声をかけて、ディスカッションを進めていきましょう。

意見の食い違いが続くと、時々意見の批判と人格の否定が混ざった発言が飛び出すことがあります。たとえば、「あなたはいつも優柔不断だから/詰めが甘いから、こんな事態になってしまったんだ」といった発言です。個人の性格を攻撃し始めると、議論が袋小路に入り込んでしまい会議が停滞してしまいます。

そこで、こういう場面では積極的に介入をして、意見と人格に対する部分を切り離し、「期日に間に合わせるためにできることを考えませんか」と、論点を整理して話し合いを先に進めましょう。

「それはいい意見ですね」は“傾聴”ではない

次のステップは、それぞれの意見を理解する時間です。

お互いの対立点の背景や理由を確認するために、ひとりずつ質問で意見を具体的に引き出していきます。このときにホワイトボードなどで議論の構造を図式化して、全員で共有しながら進めるといいでしょう。

ここで大事なのが、それぞれの発言者の良き理解者になることです。ただし、ここに落とし穴があります。しっかり傾聴姿勢を示す必要がありますが、「それはいい意見ですね」「それは素晴らしいですね」というあいづちのフレーズは状況を悪化させる危険性をはらんでいるので要注意です。

ファシリテーターは「自分の意見を言わない」「中立を守る」「どちらの見方にもならない」というのが基本です。メンバーの意見も一人ひとりさまざまだからです。

この不用意な一言のせいで、せっかくの発言を控えようと思ったり、反発したりすることもあります。ファシリテーターは、対立する意見には良しあしをジャッジせず、「なるほど、そういう意見もあるのですね」というように、客観的な立場であいづちを打ちながら話を整理していきましょう。

このようにファシリテーターにとって傾聴は必須スキルです。なぜなら、誰もが「自分を理解してほしい」と思っているからです。この段階で、しっかり意見を引き出して「教えていただきありがとうございます。私は○○と理解しました」というフレーズで、いったん発言の内容を受け取ったという合図を送ると安心するので、感情的になっていた人も落ち着いてきます。