「あきらめず伝える」ことが「聞く力」につながる

以上が私の「親への要望の伝え方」です。

すごく大げさ、と感じる方もいると思いますが、私はこの回りくどいやり方によって、「自分が納得できるところまでやってみる」ということがものすごく重要だと思っています。

自分が40代になってみて実感するのは、年をとるごとに、いろんな面で立場や力が親より強くなってしまうってことです。

だけどやっぱり親は絶対的な存在で、傷つけたりむげに扱ったりするのは罪悪感があるし、強く言って傷つけたり悲しませたりするのはつらい。

でも、話が通じないことに耐えられない時もある。

そんな人たちに、世の中はこう言います

「この年までこれで生きてきた人に、今更『変われ』って言ったって無理」
「あきらめて流すしかないよ」
「こっちが折れるしかない」

これは「親を変化させる」を前提にした対処方法です。

親はそりゃあ、変わらないです。でも、変わらないからとあきらめることで、子どもの自分が変わる必要もなくなってしまいます。つまりそれはどういうことかというと、自分もゆくゆく、そういう親になる、ということです。

そして子どもに要望を何も言ってもらえず、一方的にあきらめられる。

「親子なんてそんなもんでしょ、それでいいじゃない」という気持ちが私にも少しはあります。親が元気だからそんなこと言ってられるんだ、という自覚もあります。

でも、私が重要視するのは「親が変わること」ではなくて、「自分が納得できるかどうか」なんです。ちゃんと自分の要望を自分で理解して伝え、拒絶されたとしても、先に覚悟をしっかりしていることで、伝えるという行為はした、という納得ができます。

その上の世代にしっかり言ったぞ、という納得感は、いつか下の世代から何かを言われた時、薄っすらとであっても「聞く力」になるはずだと思うからです。

田房 永子(たぶさ・えいこ)
漫画家

1978年東京都生まれ。2001年第3回アックスマンガ新人賞佳作受賞(青林工藝舎)。母からの過干渉に悩み、その確執と葛藤を描いたコミックエッセイ『母がしんどい』(KADOKAWA/中経出版)を2012年に刊行、ベストセラーとなる。ほかの主な著書に『キレる私をやめたい』(竹書房)、『お母さんみたいな母親にはなりたくないのに』(河出書房新社)、『しんどい母から逃げる!!』(小学館)などがある。