まずやってみる「アジャイル型」

日本の企業に長年、目立ったイノベーションが起きにくかったのは、「ウォーターフォール型」と呼ばれる開発モデルが一因だ、とも言われます。

昭和や平成の時代、とくに大企業を中心に開発現場で用いられてきたポピュラーなモデルで、「水が流れ落ちる(ウォーターフォール)」ように工程が進むのが特徴。一般には、図表1のような手順で、開発が行われていきます。

一方、DXやデジタルシフトが叫ばれる中で、注目されるようになったのが「アジャイル型」。皆さんもよく耳にするはずです。

「アジャイル(素早い)」の言葉通り、「まずはやってみる」との姿勢でプロトタイプ(β版)を提示し、顧客の状況やニーズの変化に適応しながら、「計画~設計(開発)~実装~テスト」の循環を、小刻みに繰り返します。

【図表1】ウォーターフォール型とアジャイル型

デメリットは途中で方向性を見失いやすいこと

もともとはIT系企業を中心に広がったアジャイル型ですが、近年は自動車メーカーや食品メーカーをはじめ、さまざまな業界にも取り組みが波及しています。

たとえば、Honda(ホンダ)のカーシェア・レンタカーサービス「EveryGo(エブリ・ゴー)」や、キッコーマンのアンバサダープログラム「キッコーマンごはん部」など。ネスレ日本の睡眠カフェも、まさにアジャイル型に近いでしょう。

近年、そのメリットが強調されますが、アジャイル型にもデメリットはある。よく言われるのは、一般にスタート時に仕様の詳細を決めないため、途中でその方向性を見失いやすいこと。だからこそ、関係者は企業のパーパスや社会的使命をその目標とし、常に忘れずにいることが重要です。

髙岡さんの脳裏にも、常にネスレがパーパスで掲げる「すべての人々の生活の質の向上」があるとのこと。最後に、「その実現に向けて、自分も健康やウェルネス領域で貢献したい、この思いを忘れずにいたい」と力強く語りました。

牛窪 恵(うしくぼ・めぐみ)
マーケティングライター、世代・トレンド評論家、インフィニティ代表

立教大学大学院(MBA)客員教授。同志社大学・ビッグデータ解析研究会メンバー。内閣府・経済財政諮問会議 政策コメンテーター。著書に『男が知らない「おひとりさま」マーケット』『独身王子に聞け!』(ともに日本経済新聞出版社)、『草食系男子「お嬢マン」が日本を変える』(講談社)、『恋愛しない若者たち』(ディスカヴァー21)ほか多数。これらを機に数々の流行語を広める。NHK総合『サタデーウオッチ9』ほか、テレビ番組のコメンテーターとしても活躍中。